VENTUSとしてここまで戦った4シーズン、そしてこれから走り出す新シーズンへ向けて(前編) 〜乗松瑠華&井上綾香〜

大宮アルディージャVENTUSは、7月1日からRB大宮アルディージャWOMENとして新たなスタートを切ります。井上綾香 選手、乗松瑠華 選手は初年度からVENTUSを作り上げてきました。中学時代から互いを知る二人が、ここまで戦った4シーズン、そしてこれから走り出す新シーズンへ向けての思いを語ってくれました(前後編)。 


——意外ですが、このペアで話を聞くのは初めてです。
井上綾香(以下、井上) 何気に瑠華のことは13歳くらいから知ってる(笑)。瑠華が一つ下だったっけ?

乗松瑠華(以下、乗松) そう、同世代! そう言えばJFAアカデミー福島に泊まりに来たこともあったよね。

井上 JFAから何人か練習参加するように連絡があったんじゃなかったかな。1週間くらい泊まってた。最初の出会いは…、世代別代表?

乗松 ナショナルトレセンとかかもね。交流の場があってもそんなに絡むことはなくて…。

井上 会ったら「よっ! 」って感じだったけど。

乗松 ちゃんと話すようになったのはVENTUSに入ってからだよね。


——新規参入チームは実在を確かめる手立てがない中で移籍を決断しますよね。覚悟も必要だったのでは?

井上 自分はシンプルに環境を変えたかったっていうのがあったから…。移籍前2年くらいはケガでサッカーができてなくて。実際に集まったメンバーを見たら「楽しそう! 」って思いました(笑)。

乗松 でも最初は怖かったですよ。新規チームって選手を集めるのがすごく大変じゃないですか。他のチームはもうでき上がってる状況でどこから選手を獲得してくるのか…。自分から志願してVENTUSに来たので、当時は不安の方が大きかったかもしれないです。

井上 分かる! 最初は名前も知らない人もいたし…、自分は上の世代の人たちを知ってたから、こんな人見知りでもなんとかなった(苦笑)。下の世代の人たちとのコミュニケーションは…、瑠華がやると思ったしね。だって瑠華人見知りしないでしょ?



乗松 人見知りするわ! 誰かとずっと一緒にいるのがあまり得意じゃないのよ。でも浦和時代の最後のほうはそのときそのとき近くにいる人とコミュニケーションを取るようにはなったかな。ってかね、もうVENTUSの最初の頃はいっぱいいっぱいだった(苦笑)。それこそナショナルトレセンみたいな雰囲気で、知らない選手も多い中でアピールしなきゃいけない、みたいな。ピリついてたよね…。

井上 みんなの特長も分からなかったし。

乗松 だからポゼッションとかも全然回らなかった。チームとして機能しなくて…、初日覚えてる?

井上 なんかガチャガチャしてた(笑)。

乗松 超緊張の中でのバッチバチ(笑)。

井上 分かる。セレクションを受けてる感じしたもん。プレシーズンが始まって徐々にそれは抜けていったけど。


——本シーズンが始まるまでに約1年半あって、さらに時はコロナ禍。新規チームとしてはファン・サポーターの存在も感じられないという不安もあったんですか?
乗松 ないとは言わないですけど…、正直その不安を感じられないほどいっぱいっぱいでした(苦笑)。でも、男子の試合のときにお披露目というか、挨拶があったじゃないですか。あれで大宮のファン・サポーターは温かいな…、って今でも印象に残ってます。

井上 初年度は特にファン・サポーターの人たくさん見に来てくれて…、試合の最後のほうに観客数が出ますよね。実は、あれけっこう見てた。「今日もすごい! 」って(笑)。

乗松 あれ、見ちゃうよね(笑)。

井上 今でも練習公開日には、変わらずたくさん来てくれるのもすごいと思ってる。

乗松 しかも平日だよ?自分たちも一人ひとりの顔もちゃんと分かるし、距離が近いのが良いよね。最初の頃、「シフトを調整しないといけないから公開日を早く発表して~」って言われたことがあって(笑)、本当に大宮というチームが生活の軸になっているんだなってびっくりしたことがあります。




——新規のチームを作っていくのは、やはり難しかったですか?
井上 INAC神戸レオネッサにボコボコにされたあの開幕戦が忘れられない(苦笑)。大敗がショックというより、ここからどうしていくのかっていうのが難しかったよね。何もないところから始まってるから、戻るところもなくて、何をどうしていくんだろう…って。結局、アリさん(有吉佐織)、サメさん(鮫島彩)たちに引っ張っていってもらう形になったけど。



乗松 そこにケガ人もどんどん出ていなくなるしね。最初は試合経験が少ない人もいたし、守備のベースがしっかりしてないところに、チームの戦い方も定まらないから、修正したくても修正をかけられなかった。いろんな必要要素が多すぎて…。


——そんな苦しい時期に、お二人はなでしこジャパンにも選出されていました。あの経験はご自身にとってはどういうものでした?
井上 楽しかった! 周りももちろんうまいから、ボールも出てくるし、自分の特長もはっきり出せる感じでプレーできました。逆を言えば、もっとシンプルなところで切り替えとか球際とかが自分にもVENTUSにも足りていないんだなって改めて感じさせられもしました。自分自身は、そこはしっかりやっていこうと思ってやってきいていて、今もそれは変わらないです。

乗松 代表は求められる基準が高いからね。帰ってくるとぬるいと感じることは正直ありました。でも一か月も経つと自分もそっちに流れていて…。でもアリさんとかサメさんは絶対にブレなかった。そういう意識を持った人がいるほうといないほうのポゼッション練習って全然違うんです。それをやり続けるって本当にすごいことで…。つねに求め続ける雰囲気を毎日毎日作るのはすごく大変なことだけど、それができるチームは強いと思う。こういう雰囲気っていうのは誰か一人が作るんじゃなくて、みんなで作らないといけない。その点では2024-25シーズンは87組の人たちが抜けたことで一人ひとりの自覚が芽生えたから、良い雰囲気にはできてたんじゃないかなって思います。


——今は誰がそのきっかけ作りをしているんですか?
乗松 年長の人もそうだけど、(杉澤)海星とか…、あと、みー(林みのり)はすごく周りに要求するようになった!

井上 めっちゃ声出すようになったよね。

乗松 みー自身も試合に出られない時期があって、自分の中で変わったことがあったのか…、ちょっと前から変わってはきてたけど、2024-25シーズンは一気に変わった。球際とか切り替えも速くなったと思う。

井上 それ、思った!





——ここまで戦ってきたなかで印象に残る対戦相手は?
井上 浦和の存在かな。どの対戦も力の差を見せつけられたから。瑠華も自分もスタートからは出てないホームゲームで開始直後に失点してるのを見て、実際にやってても、外から見ててもこんなに差があるんだって愕然としました。でも日テレ・東京ヴェルディベレーザやI神戸に点を取れるようになってきてはいるから、浦和からもまずは点を取りたいんです。

乗松 自分はサンフレッチェ広島レジーナ! やっぱり同じ新規参入チームとしてS広島Rには負けたくないっていうライバル心が自分の中にある。ボロ負けしたり、ボロ勝ちしたりしてるんだけど…。アウェイで負けたときに、スタンドが総立ちになっていて、あの景色は悔しかったなー。しかも広島がカップ戦を獲って…、2回も(笑)。ウチらもやらないと! って思わされました。



(後編へ続く——)




早草 紀子(はやくさ のりこ)
兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿する。女子サッカー報道の先駆者であり、2005年から大宮アルディージャのオフィシャルカメラマンを務める。

FOLLOW US