今回は、いよいよ開幕が直前に迫った「FIFA U-20ワールドカップチリ2025」に向け、市原吏音選手のインタビューをお届け。クラブオフィシャルライターの粕川哲男さんが、大会への意気込みやチームメートへの想いなどを聞きました。
優勝したら、いろいろな人を幸せにできる
――「FIFA U-20ワールドカップチリ2025」に出場するU-20日本代表メンバーへの選出、おめでとうございます。
「ありがとうございます」
――不安はなかったと思いますが、メンバー入りを聞いてどう感じましたか?
「何人かの選手とは連絡を取り合っていましたが、メンバーに入るかどうかよりW杯に向けた自分のコンディションとか、今戦っているリーグ戦のことをずっと考えています」
――大会へ向けての心境は?
「リーグ戦で上位争いをしている中で行くので……あんまり。まだ、大宮でのリーグ戦にフォーカスしている感じなので、そこまでW杯のことは考えていませんでした。ただ、苦労して手に入れた切符ではあるので、絶対に後悔しないようにしたいです」
――子どものころから、サッカー選手としての将来を夢見てきたと思います。日の丸をつけてW杯に出ることに対して、どんな感慨がありますか?
「A代表ではないので、めちゃくちゃ夢見てた舞台とは違いますけど、W杯はW杯、日の丸は日の丸なので、責任とうれしさは感じています」
――ご自身にとって初めての世界大会ですね。
「今、大宮でも副キャプテンをやらせてもらっていますし、代表でもずっとキャプテンをやらせてもらっているので、自分が引っ張っていかなきゃなっていう思いは、大宮にいるときも代表にいるときも同じようにあります。自分にとっては大きなチャンスの大会で、自分のサッカー人生が変わるような大会だとも思うので、後悔だけはしたくない。あまり良いプレーをしようと思わず、いつもどおりの自分を表現できたらと思います」
――個人的にもチームとしても、持てる力を出せば結果はついてくる?
「チームがいかに上に上がれるかが大事だと思います。決勝まで行ったら、いろいろな人が見てくれると思います。優勝したら、いろいろな人を幸せにできるし、自分も幸せになれる。だから個人的にどう、ということではなく、チームで結果を出せればいいと思います」
南米はサッカーに対する熱さがほかと違う
――U-20日本代表の戦績は1999年のナイジェリア大会(当時はFIFAワールドユース選手権)の準優勝以降、ベスト8が最高という歴史があります。
「活動があるごとに言われてきました。準優勝がベストで、新しい歴史を作るという目標を掲げて、船越優蔵監督とここまで2年ぐらいやってきました。優勝は狙っていますし、優勝することが歴史を作ることにつながる。ただ、そんな簡単にいくわけない。出るまでも苦労をしてきたので、まずは1試合1試合しっかりと戦って、気づいたら優勝してましたみたいな、そんな感じでいいのかなって」
――代表のチームメートと話をするときも、優勝を意識した感じですか?
「みんな優勝しか考えてないと思います」
――開催国であるチリに対するイメージはありますか?
「南米はやっぱり激しさとか、サッカーに対する熱さがほかと違う感覚はあります。開催国とグループステージで対戦できるので、めちゃくちゃ楽しみではあります。たぶん、たくさんお客さんが入ると思いますし、どアウェイの中で普段じゃ経験できないような雰囲気とか歓声とかがあると思うので、そういうところも含めて経験を積んで、成長して、なおかつ結果を残して帰ってきたいです」
――チリに行くのは初めて?
「はい。南米も初めてです」
――グループステージの対戦相手はエジプト、チリ、ニュージーランドです。
「あんまりイメージがなくて、個人的にもそこまで下調べとか、対戦相手をチェックするタイプでもないから詳しくは分からないんですが、言い方は悪いですけど、いいところに入ったなと思います。上に行ける感覚はありますし、グループAは日程的にもほかより恵まれている部分があるので、いいグループだなって。やっぱり勢いとか運も大事なので、そういうのも全部手繰り寄せて優勝したいです」
――グループステージ突破が最低限で、その先どこまで行けるかという感じですか?
「チームがどう考えているのかは分からないですけど、僕個人はそうですね。内容なんて関係ない。全部結果だと思っています。グループステージ1位で(ノックアウトステージに)上がろうが、成績の良い3位で上がろうが、最終的に優勝すればOKです」
PKは「僕が蹴りますよ」
――市原選手のU-20日本代表での活動で言うと、「AFC U20アジアカップ中国2025」の最終戦となった準決勝のオーストラリア戦は出場なし。「第51回モーリスレベロトーナメント」も途中帰国と、やや消化不良が続いているような気がします。
「そうですね。本当に特別な場所で、小さいころから夢見てた舞台なので、1試合でも多く日の丸を背負って戦いたい気持ちは、たぶん全員が持っていると思います。ただ、大宮も僕にとってすごく大事なので、途中離脱に関しては何も思わないですし、今後もしっかり両立していきたいと思います。クラブと代表、両方で活動できるのは幸せなことです」
――これまでにも世界の国と戦ってきて、いろいろな気づきがあったと思います。
「見えないところで手を使ってきたりとかも平気でするので、そういうところは学びたい。アイツらの勝利に対する執念、1点リードしたときの時間の稼ぎ方とかすごいので。そのあたり、日本人はやっぱり優しいなと思います」
――ただ日本としては、日本らしいクリーンさで勝ちたい思いもあるのじゃないですか?
「どうですかね。ときにはそういったずる賢さも必要だと思うし、それを使う必要のない実力があればいい。その両方が大事で、どっちにしろ勝てばいいと思います」
――代表ではPKを蹴ることが決まっているのですか?
「試合中にPKを取ったときですか?あれは試合直前に決まるんですよ。だけど、僕が蹴りますよ。ここ(大宮)でも蹴りたいですもん」
――緊張しないんですよね。
「外れたらしゃあないって感じですね。練習してるし。外した人の責任では絶対ない。僕自身は良い意味で気負わずに蹴っているというか、気楽に蹴ってます」
僕たちの結果が今後の日本サッカー全体の結果を左右する
――W杯のグループステージは中2日で3試合という日程です。
「中2日は、なかなか経験できないので正直キツいです。でも、以前も海外遠征から大宮に帰ってきたときにすぐ練習に参加させてもらったりしたので、2日あれば大丈夫です。気合いでなんとかします」
――A代表、しかも海外組となると移動も大変ですからね。
「本当にそうなんです。移動がないだけで全然ラクです。甘いことは言ってられないので、頑張ります」
――アジアでの戦いとは違って、互角だったり格上だったりが相手になると思いますが、世界を相手に戦ううえで必要になることは?
「やりやすいと思いますけどね。アジアはどうしても日本を倒すみたいな気持ちで来るし、それを受けちゃダメなんですけど、どうしてもそんな構図になりますよね。ただ、世界に出たら自分たちがチャレンジャーになるので。向かっていく戦いはやりやすいと思います。失うものがありませんから。どんどんチャレンジしていきたいです」
――真っ向勝負が好きなんですね。
「押し込まれる展開、自分たちが押し込む展開、カウンターでやり合う展開と、いろいろな状況が来ると思いますけど、そっちのほうが楽しいですよね。チャンスもピンチも来る。サッカーってそういうものだと思うので。そんな展開で最後に勝てるように頑張ります」
――大宮でも、どっちに転ぶか分からないような試合を切り抜けてきていますからね。
「そうですね。運が良ければ勝てると思います。みんな『優勝』って口にするじゃないですか。でも、言わないと変だと思われるから言ってるのか、本気で優勝したいと思っているのか。その差が出ると思います」
――頂点に辿り着ける可能性はあると思います。
「世界的には、U-20で優勝した世代がA代表の中心になって国際大会で優勝しているそうなので、ちょっと大袈裟かもしれないですけど、僕たちの結果が今後の日本サッカー全体の結果を左右するぐらいの気持ちで臨みます」
ずっと一緒に練習してきた先輩、仲間たちなので大丈夫
――このタイミングでチームを離れることになります。
「上位陣との戦いが待っている大事なときにチームを抜けるのは申し訳ない。ここに残って一緒に戦いたい気持ちもあるし、代表でしっかり戦ってきたい気持ちも……。あとは任せるしかないですね。ずっと一緒に練習してきた先輩、仲間たちなので大丈夫だと信じています」
――チームを離れている間、チームメートにはどんなことを期待しますか?
「本当に良い先輩、良いチームメート、良いライバルですから。ここまで、なかなか出場機会を得られていない選手が、大一番で抜擢されることもあると思いますが、自分はそういう人たちが自主練で頑張っている姿を見ているし、一緒に高いレベルの練習を乗り越えてきてるので、何も心配はしていません。本当に頼れる先輩ばかりなので、誰が出ても大丈夫です」
――昨季からの勢いや注目度を考えても、今年J1昇格を決めたいですね。
「去年あれだけ勝って上がってきて、今年も良い順位につけてますけど、このまま終わってJ1に昇格できなかったら、『なんか良かったよね』で終わっちゃうと思います。レッドブルの強力なサポートがある中、いろいろなことが良くなって、毎試合1万人を越えるファン・サポーターが来てくれる状況で、『なんか良かったよね』で終わるのは、あまりにもったいない。今は勢いがありますし、この場所にいていいクラブじゃないと思うので、一気にバンバンと一番上まで行きたいです。埼玉県には浦和レッズもあるので、大宮がJ1復帰を実現すれば、サッカーの熱がもう1回高まると思いますし」
この大会を経て「絶対にA代表までいきたい」
――U-20W杯決勝が10月19日。優勝して帰ってきたら、残り5試合です。ストーリーとしては出来過ぎじゃないですか?
「カッコいいっすね。でも、そんな簡単にいかないし、去年から目の前の1試合1試合、目の前の練習ということをチーム内でも話してきて、優勝を目標に掲げてますけど、代表でも同じく目の前の1試合をしっかり戦いです」
――気負いはありませんね。
「言い方は悪いけど、自分で手に入れたものなので。厳しい予選を戦って、苦労して手に入れた結果ですから。当然、日本のために戦いますし、国を背負う責任は感じますけど、まずは自分が1番楽しんで、最高の大会にできればいいと思っています」
――U-20日本代表の先のA代表や、2年後の五輪も意識していると思います。
「A代表になりたい気持ちが強いから、U-20W杯の前でも気負わず、普段と変わらない心境でいられるんだと思います。絶対にA代表までいきたいので、あくまで過程と言うか、その先まで続く道の途中という感じです」
――最後に、あらためてW杯への意気込みをお願いします。
「普段どおりの自分で大会を楽しんできたいですし、大宮のファン・サポーターも絶対に応援してくれると思うので、不甲斐ないプレーをしないで、頼もしい自分を見せられたらと思います。自分らしく頑張ってきます!」
粕川 哲男(かすかわ てつお)
1995年に週刊サッカーダイジェスト編集部でアルバイトを始め、2002年まで日本代表などを担当。2002年秋にフリーランスとなり、スポーツ中心のライター兼エディターをしつつ書籍の構成なども務める。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。