ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、J1昇格へ向けて重要なこの最終盤で得点を重ねるFWカプリーニにフォーカス。日々チームを取材するエル・ゴラッソの田中直希記者が、いくつかの側面からその要因を探りました。

【ライターコラム「春夏秋橙」】田中 直希
なぜ今、点が取れるのか。必殺仕事人・カプリーニの知られざる研鑽
特筆すべき“出場時間に対する得点数”
まず、この表を見てほしい。J2得点ランキング上位の選手の、『1得点を取るのにかかる時間』を計算した表である。

【※第34節終了時点】
10得点でランキング6位のカプリーニは、約152.7分間で1ゴールという結果で、短い出場時間にもかかわらずゴールを量産していることが分かる。その“得点力”はリーグ2位(表内の「RANK」の列)。90分間の出場で0.59点を奪っている計算だ。彼のゴール奪取力がどれほど高いか、わかるデータである。加えて、アシストも多いのだからあっぱれと言うほかない。
直近の出場4試合では4得点と量産中。宮沢悠生監督就任後は、2トップの一角としてプレーし、その得点力をいかんなく発揮している。
「何かきっかけがあったのか、というとそういうものはない感覚です。今はアルトゥール(・シルバ)が近い位置でプレーしていて、いいコンビネーションが築けているのは確かですが、それもシーズンの始めから変わっていないことですからね。つねにチームのためにやろうという気持ちで、最初から準備し続けてきました」
本人がそう語るように、現在の活躍はフロックなどでもなく、日々続けてきた努力の成果であり、元来、彼が持っている能力が表出した結果だ。
「自分に対しての自信を1回も疑ったことはありません。もちろん、優秀な仲間がいて、チャンスを作ってくれたからこそ、ゴールを決められているのだと思います」

守備の姿勢と、ボールを呼び込む動き
今季からRB大宮アルディージャに加わったカプリーニは、横浜FCでのJ1昇格経験を引っさげて、ガブリエウとともにこれまでのチームの躍進に大きく貢献。その魔法の左足は次々とゴールを生み出してきた。
彼を近くで見続けてきた上原レオナルド通訳は、「カプは試合に出ているとき、出られないときも関係なく、練習から同じ姿勢でやり続けてきましたから」と目を細める。
Jリーグにもあまた存在するブラジル人(ブラジル人だけの現象ではないと思うが)の中には、出場機会が少なくなると途端にモチベーションを下げてしまう選手もいる。しかし、彼は違う。前述のとおり、どんなときでもチームファーストの姿勢を崩さなかった。たとえ出場時間が短くとも、「一番は、チームを助けるという意思でやっている」からこそ、ここぞの場面で結果がついてくる。
前節・モンテディオ山形戦の22分のシーンを振り返っても分かるとおり、守備でも奮闘する場面もよく見る。チームが求める守備に加えて、こうした“奪い返す”姿勢もいい。
次に、今季の試合を見続けてきた方には簡単なクイズを一つ。
相手陣地でボールを受けたカプリーニが、左前方にいた藤井一志にボールを渡す。では、ここから彼はどう動くか。
今季の試合を見続けてきた方ならおわかりだろう。
そう、カプリーニはワンツーの動きで、左足を振り抜くために前のスペースに入り込み、ボールを呼び込む。
実際に、その動きがオトリとなり、杉本健勇の得点が生まれたのだ。

「カプリーニなら」。努力が生んだ今の連係
戸田光洋コーチは、カプリーニが見せる現在の活躍について、「ブラジル人同士の連係はもちろん、日本人選手との関係が日を追うごとによくなっていると感じる」ことを理由に挙げた。
「カプは、練習中から『こういうプレーをしたいんだ』と周囲に見せ続けていて、どんどん連係が合っていった。今は、選手同士の強みを分かり合っている。だからこそ、成果が出ているのだと思う。そうやって、周りを認めさせていった感じもしますね」
カプリーニのプレーを見てきた者が、「こんなプレーをするのだろう」と予想できるように、無論、チームメートも彼がしたいプレーは手に取るように理解している。戸田コーチも「例えば(泉)柊椰なら、自分がドリブルしているときにカプリーニがどのあたりにいるのか、感覚でわかるはずですよ」と話した。
カプリーニならここにパスが出てくる。
カプリーニならここに動いてくれる。
そうして、良好な連係が構築されていく。
戸田コーチは、カプリーニとのミーティングでの一幕も明かしてくれた。
「以前、指導した外国籍選手の中にはミーティングをしても『自分の感覚でプレーしたいから』と、話半分で聞いている選手もいました。でも、カプリーニにアドバイスすると、『オッケー。そういう動きですね。わかりました』と、確かに次の機会にそのプレーを見せてくれるんです」
監督やコーチの指示を体現する、その傾聴力も彼の魅力で、チームにすぐフィットした理由でもあるだろう。
レギュラーシーズンは残り4試合。J1昇格プレーオフを見据えれば、残り6試合。攻撃のキーマンの一人であるカプリーニへの期待も大きい。
「残りの試合も、今までどおりにプレーすることにフォーカスしながら、チームを助けていきたい。もちろん、ゴールも狙っていきます。レッツゴー、ジェイワン!」
ゴール前の必殺仕事人であり、J1昇格請負人。最終盤で、ゴールと勝利と歓喜を生み出す左足が味方についていることがどれだけ心強いことか。

田中 直希(たなか なおき)
2009年からサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の記者として活動。首都圏を中心に各クラブの番記者を歴任し、2025年からはRB大宮アルディージャの担当を務める。著書に『ネルシーニョ すべては勝利のために』、『Jクラブ強化論』など。


