【ライターコラム「春夏秋橙」】変わらぬ空気感と“全員戦力”。J1昇格は大宮らしさを貫いた先に

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、J1昇格をかけて戦うこの最終盤にお送りする“特別編”。長年クラブを取材しているオフィシャルライターの粕川哲男さんに、昇格への思いを込めた記事を執筆してもらいました。


【ライターコラム「春夏秋橙」】粕川 哲男
変わらぬ空気感と“全員戦力”。J1昇格は大宮らしさを貫いた先に


ベテランが語る「一体感の背景」

大宮の練習は、いつも活気に満ちている。

目の前の勝利に向かって誰もが全力を尽くし、違う方向を見ている人間が一人もいない。笑顔が見られる場面が多く、仲間を叱咤するゲキも飛び交う。その場を盛り上げて一体感を高めようとする気配りと、バチバチとした闘争心が共存しており、チームの全員で目標を勝ち取るんだという強い意志が伝わってくる。

振り返ると、長澤徹監督が就任した直後から雰囲気は変わっていない。宮沢悠生監督がバトンを受け継いでからも充実した空気が漂い、練習の強度や緊張感は目を見張るほどだ。最近は、経験が豊富で自分なりの言葉を持つ選手が試合直前にスピーチをするのが恒例で、宮沢監督はその理由をこう説明する。

「ここには、私よりも多くの経験をしている選手、思いが詰まった選手がたくさんいる。彼らに思いをぶつけてもらうことで、若い選手たちが学べると思ったんです。それとトミ(富山貴光)とかの姿勢、練習からしっかり雰囲気を作って、冗談をまじえながら真剣に取り組んでいる姿を見ると、このクラブで実現してきたことの大きさが分かる。オーラが違う彼らが語ったほうが響くと思い、100%信用して任せています」

経験も言葉も持っている選手の一人、和田拓也は大宮の「変わらない空気感」こそが、最終盤に際立つ強さの要因だととらえている。首位の水戸ホーリーホックに勝利した試合後、いつもの落ち着いた口調でチーム状態の良さを教えてくれた。

「自分たちは勝ち続けるしかない。首位相手だからどうこうではなく、『目の前の一戦一戦』という意識がある。そんな中で、やることをしっかりやって勝てたのが大きい。今日が良かったわけではなく、仮に負けていても状態は良いし、一体感が増して良いチームになっている感じがある。優勝するチームの雰囲気かと聞かれたら、そうとは言えないけど、バタバタしたところはない。勝てない時期があって、監督も代わったけど、崩れなかった。ここに来て、そのあたりがほかのチームとの違いになっているのかなと思います」

大宮で2度(2015年のJ2優勝とJ1昇格、2024年のJ3優勝とJ2昇格)、横浜FCでも1度(2022年のJ1昇格)、計3度の昇格に貢献している男の言葉には、説得力がある。

「今は、誰が試合に出ても戦える」

下手したら転落していたかもしれない分岐点は何度かあった。7試合勝ちなし、昨季は一度もなかった連敗、衝撃的な監督交代、さらには宮沢監督が初めて指揮した第31節・ジュビロ磐田戦での2点のビハインド……。それでも、大宮は崩れなかった。

開始14分で2点を失い、絶体絶命かと思われたあの磐田戦の5日後、下口稚葉は逆転勝利を実現した仲間たちの意地、そして自身の底力を口にした。

「気持ちがあれば、ああいうゲームができる。それを、プロ9年目で初めて感じました。高校生のころに戻った感じ、エキサイトした感じがありました。捨て身じゃないですけど、どこか吹っ切れているというか、開き直ったマインドでサッカーをしたのはひさびさ。新しい自分に出会った感じもします」

大宮の選手たちは崖っぷちに追い詰められていた。しかし踏ん張り、自らの手で勝利を手繰り寄せた。その勢いは、現在も継続している。

宮沢監督就任を境に6試合負けがなく、獲得した勝点は「16」にのぼる。ここ6試合の獲得勝点を比べると、1位・水戸「12」、2位・V・ファーレン長崎「11」、4位・ジェフユナイテッド市原・千葉「9」、5位・徳島ヴォルティス「13」、6位・ベガルタ仙台「10」で、3位・大宮の「16」はリーグ最多。残り2試合となっても結末が見えない「魔境」において、大宮は今、最も勢いのあるチームと言える。

先発出場と途中出場との格差がなく、チームの総合力で勝点を伸ばしている。それは、昨季から変わらない。「レギュラー11人という考えはない。登録選手全員がレギュラー」と語っていた長澤監督が築き上げたラージグループは、失われていない。

実際、モンテディオ山形、ブラウブリッツ秋田、水戸と戦った直近の3試合は、杉本健勇、津久井匠海、ファビアン・ゴンザレス、イヨハ理ヘンリーと、試合途中からピッチに立った選手が得点している。

また、苦しみながらも努力を重ねてきた選手たちが、ここに来て脚光を浴びている点もチームの士気を高めている。序盤戦で途中出場が続いたカプリーニが10得点でチームのトップスコアラーに躍り出て、第32節・仙台戦では福井啓太がヒーローとなり、谷内田哲平がトップ下のポジションでアシストを重ね、第35節・秋田戦では村上陽介が度肝を抜くスーパーゴールを叩き込んだ。

豊川雄太は自分たちのチームに胸を張り、追う者としての心の余裕も見せる。

「今は、誰が試合に出ても戦える状況になっているので、最後が本当に楽しみ。個人的な気持ちを言うなら、自分に集中して、自分にできることを継続してやって、あとは結果を見てみましょう、という感じですね」

大宮は強い。ファン・サポーターの声援は、ホーム・アウェイ関係なく鳴り響いている。その熱量は無限大。大宮を愛する全員がポジティブな雰囲気を作る中、クラブにとって3度目のJ1昇格が近づいている。



粕川 哲男(かすかわ てつお)
1995年に週刊サッカーダイジェスト編集部でアルバイトを始め、2002年まで日本代表などを担当。2002年秋にフリーランスとなり、スポーツ中心のライター兼エディターをしつつ書籍の構成なども務める。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。

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