【ライターコラム「春夏秋橙」】さあ、快進撃のゴールへ。勝負の2試合で問われるのは「これまでの自分たち」だ

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、J1昇格プレーオフへ向けた特別編。長年クラブを取材しているオフィシャルライターの戸塚啓さんによるコラムです。


【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓
さあ、快進撃のゴールへ。勝負の2試合で問われるのは「これまでの自分たち」だ


難儀だった最終節・山口戦

さぁ、始めようか。快進撃を──個人的には、まさにこの気持ちを抱く。

11月29日のJ2リーグ最終節の結果は、誰にとっても受け入れがたいものだったに違いない。第37節の徳島ヴォルティス戦に続いて、苦杯をなめることとなった。この重要な局面で、シーズン3度目の連敗を喫してしまった。

ただ、J2残留争いの渦中にあるチームの選手、ファン・サポーターが、目前の試合にどれほどのパワーを注いでいくのかを、私たちは実体験している。試合が行なわれた維新みらいふスタジアムは、ホームチームの勝利を信じる圧倒的な熱にあふれていた。J1昇格プレーオフ圏の大宮に対して、畏怖の念を抱くような雰囲気はなかった。だから敗戦もしかたないなどと言うつもりはないが、難しい試合だったのは間違いない。順位がそのまま結果に反映されないのが、シーズン最終盤の戦いなのである。

宮沢悠生監督の就任から5勝1分の6戦負けなしで、勝点を積み上げてきた。しかし、徳島戦、第38節のレノファ山口FC戦と連敗を喫した。どちらの試合も逆転負けである。

この2試合で最大勝点をつかんでいれば、3位でプレーオフに進出することも可能だった。プレーオフは一発勝負だ。リーグ戦上位のチームのホームスタジアムで行なわれ、同点の場合はリーグ戦年間順位の上位クラブが勝者となる。6位で出場するわれわれは敵地へ乗り込み、90分で勝ち切らなければならない。NACK5スタジアム大宮で戦うことができないのは、残念でならない。

プレーオフ準決勝で激突するジェフユナイテッド市原・千葉は、第33節から6戦負けなしでフィニッシュした。最終節はホームでFC今治を5-0で粉砕している。今治のマルクス・ヴィニシウスが出場停止でなければ、千葉ももう少し苦しめられたことだろう。ともあれ、相手は勢いを持ってプレーオフに挑んできそうだ。

積み上げてきた日々と数字を、エナジーに変えよ

彼我のチーム状態を考えると、悲観的な思いが膨らむかもしれない。

僕自身は、少し違う気持ちでいる。

徳島戦と山口戦の失点は種類が違うものの、チームとしての守備の原則、フットボールの本質、自分たちが大切にしてきたものはなんなのかといったことを、今一度確認するきっかけとなっている。このタイミングで自分たちの矢印を、それも猛烈に太い矢印を向けることになったのは、確実にプラスに働くと考える。

何よりも、最終盤の連敗で失ったのは勝点だけなのである。これまで積み上げてきたものは、何一つ失っていない。

シーズン開幕前を思い返す。J3からJ2へ昇格したわれわれは、J2の18番目からのスタートだった。当時の長澤徹監督も選手たちも、「チャレンジャー」の立場を強調していた。どんな相手にも襲いかかる姿勢で開幕節から挑み、勝点を積み重ねていった。

プレーオフという大一番を前にした数日のトレーニングで、チームがドラスティックに成長することはない。選手一人ひとりの技術レベルが、急激に上がることもない。

問われるのは「これまで」である。

雨の日も、強風の日も、湿気が肌にまとわりつく日も、肌を焼くような日差しが照りつける日も、チームは西大宮で、秋葉の森で、一生懸命に汗を流してきた。一人ひとりが自分と真摯に向き合い、そのプレーを磨いてきた。チームメートのプレーに負けず嫌いのメンタルを触発され、監督以下スタッフの指示や助言にしっかりと耳を傾け、経験者のアドバイスを受け止め、若手の頑張りに刺激を受けて、チーム全体がレベルアップを果たしてきた。

今季のチームは、リーグ2位の60ゴールを叩き出した。リーグ戦の半分以上となる20試合で、複数得点を記録してきた。

失点はリーグで5番目に少ない。1試合1失点近くに抑えている。38試合の長丁場で残した数字に、私たちは自信を持っていいのだ。

リーグ戦で主力を担ってきた選手を、ひょっとしたら欠くことになるかもしれない。そもそも、キャプテンのガブリエウ、経験豊富な石川俊輝や濱田水輝らが、長くピッチから離れている。笠原昂史や茂木力也らも、シーズン最終盤から出場していない。

戦線離脱者が出るといったアクシデントをはねのけるチーム体質を、昨季から磨いてきた。ポジションを争うライバルをリスペクトしつつ、それぞれの選手が自分なりの武器を磨いてきた。

その結果として、誰がピッチに立っても、どんな組み合せでも、チーム力が落ちないようになってきた。落ちないだけでなく、違った個性で相手を圧倒できるようにもなってきている。

J1昇格をかけた一発勝負は、1シーズンに4チームしか戦うことができない。誰にでも経験できるものではない。何度も経験できるものでもない。

だからこそ、この全身が痺れるような90分(×2試合)を、選手たちには存分に楽しんでもらいたいのだ。プロフェッショナルとしての醍醐味を全身で感じて、ピッチに立つ喜びを勝利へつながる闘志に、相手を圧倒するエネルギーに変えてほしいのである。

J2昇格1年目でのプレーオフ出場は、まさしく「快進撃」と言っていい。そして、私たちの歩みには、まだまだ続きがある。2月15日のモンテディオ山形戦から始まった「快進撃」は、12月13日がゴールとなるはずだ。


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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