【ライターコラム「春夏秋橙」】あと2つ。原点を思い出せば、もう一度大宮らしく戦える

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、J1昇格プレーオフへ向けた特別編。長年クラブを取材しているオフィシャルライターの粕川哲男さんによるコラムです。


【ライターコラム「春夏秋橙」】粕川 哲男
あと2つ。原点を思い出せば、もう一度大宮らしく戦える


千葉とは拮抗。思いの強さが勝負を分ける

さぁ、「明治安田J1昇格プレーオフ2025」だ。

J1自動昇格圏にいた序盤戦を懐かしがったり、もう少し勝点を取れていたはずと敗戦や引き分けを悔しがったりするのではなく、ポジティブな思いを集めて前を向き、目の前の相手であるジェフユナイテッド市原・千葉に挑みたい。

千葉との対戦は、リーグ戦、カップ戦、天皇杯を合わせると過去30試合あり、戦績は大宮の13勝5分12敗。J2リーグに限ると7勝3分6敗、得点16・失点16でほぼ互角。今季は国立競技場でのアウェイゲームで競り勝ち、ホームゲームで敗れている。どちらも拮抗した展開となり、1点差で勝敗が分かれた。

力の差はない。決勝に進むのはJ1昇格にかける思いが強いチームだろう。

徳島ヴォルティスとレノファ山口FCを相手に2試合連続で逆転負けしたという現実が、選手たちを原点に立ち返らせると信じたい。

「自分たちがやってきたこと、走って戦うところをもっともっと出さないといけなかった。前半は特にデュエルの部分で負けていたし、失点もちょっとアッサリした感じだったので、もったいなかったと思います。2年前に自分たちは逆の立場を経験しているので、(山口が)死に物狂いで来るのは分かっていたのに、あとがないチーム相手に受けてしまった。もっと自分たちからしかけるプレーが必要だったんじゃないかと思います」

痛恨の敗戦となった山口戦後、市原吏音は自分たちに何が必要だったかを冷静に分析し、次なる戦いに目を向けていた。

勝つしかない。今こそスタイル全開で

屈辱のJ3降格から2年の月日が流れた中、長澤徹前監督、そして宮沢悠生監督と日々の練習で取り組んできた自分たちのスタイル、大宮の強みはなんなのか。

それは、球際、切り替え、ハードワークを重視しながら最後まで戦い続けることであり、観衆の心を打つひたむきな姿勢や積極性ではないだろうか。

原点を思い出せば、もう一度大宮らしく戦える。

そもそも大宮は2シーズンぶりにJ2リーグを戦う昇格チームで、電撃的な監督交代も乗り越えてJ1昇格の可能性を残すチャレンジャーだ。失うものなどない。山口戦のあと、宮沢監督は選手たちと方向性を確認した。

「自分たちが6位という順位になったのは、38節みんなでやってきた成果で、6位という順位からチャレンジャー精神で上位チームに勝っていく。最初の立ち上げのときに話したことをもう一回やっていこうと、選手たちには話をしました」

ここまでの努力と成果に対しては、充分に胸を張れる。

大宮在籍年数最長10年、2015シーズンのJ2優勝も知る富山貴光は、「サッカー界の流れを含めて時代が違うので、単純に比べられませんけど」と前置きしたうえで、「ここまでの成績は、本当に細かいところ、戦う、走る、あきらめないといった部分を、(長澤)徹さんのときからしっかりとやってきたからこそ。積み上げてきた土台があるからこその結果だと思います」と語り、J1昇格プレーオフまで辿り着いた今季のチームが、過去の大宮に引けを取らないと自信を見せる。

残り1枠のJ1昇格権を巡る戦いは、90分一本勝負だ。年間順位を考慮し、引分けの場合は千葉(3位)が勝ち上がる。大宮(6位)は勝たなければ先がない。

ただし、「引分けでもOK」という前提条件が選手たちの心理に何らかの影響を及ぼし、足枷となる危険性があることを、大宮は痛感している。

2018シーズンは1本のセットプレーで東京ヴェルディに、2019シーズンは試合終盤の連続失点によりモンテディオ山形に、どちらもホームで敗れた。もっと積極的にゴールを目指していれば……という悔しさが胸に残るファン・サポーターも多いだろう。

上位で相手を迎えた過去2回とは異なり、今回は勝利のみが希望をつなぐ。だからこそ、宮沢監督が掲げる「勇敢に狩りにいく」スタイルが生きる。

村上陽介は「勝つしかないプレーオフは、宮さん(宮沢監督)が掲げているサッカーがそのままできると思いますし、そういうメンタリティでやるしかない状況だと思うので、しっかり良い準備をしたい」と気持ちを引き締めている。

千葉のサイド攻撃を警戒しながら、相手の裏を突くことができるか。山口戦でゴールを決めた関口凱心は、勝利のみが求められる展開で攻守のバランスを取る難しさを認めつつ、「点を取ることでしか勝利はないと思うので、前半からガンガンしかけていきたいですし、また得点やアシストができればいい」と強気の姿勢を崩していない。

そして何より大事なことは、大宮にかかわるすべての人が一丸となって戦うことだろう。山口戦を終えた下口稚葉は、大宮の番記者陣に向かって一言「次、頑張りましょうね」と声をかけてチームバスに乗り込んだ。プレーでチームに貢献できないまま敗れた悔しさを見せることなく、「一緒に千葉と戦おう」と言ってくれたのだと感じた。

どん底から這い上がってきた大宮は今、2つ勝てばJ1という地点に立っている。ケガで戦列を離れているメンバーの思いも背負う選手たちと、ともに戦い、全員の力で目の前の勝利をつかみ取ろう。



粕川 哲男(かすかわ てつお)
1995年に週刊サッカーダイジェスト編集部でアルバイトを始め、2002年まで日本代表などを担当。2002年秋にフリーランスとなり、スポーツ中心のライター兼エディターをしつつ書籍の構成なども務める。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。

FOLLOW US