【新加入選手紹介コラム】少年のような純朴さと、強烈なカットイン。山本桜大が大宮の地で咲き誇る

明治安田J2・J3百年構想リーグの開幕が近づいてきた中、新加入選手の中から数人をピックアップして紹介。今回は、昨季レノファ山口FCでリーグ戦10得点と大ブレイクし、大宮に活躍の場を移した山本桜大選手です。エル・ゴラッソで山口の番記者を務める田辺久豊記者に、間近で見たことで分かった強みとキャラクターについて綴ってもらいました。

少年のような純朴さと、強烈なカットイン。山本桜大が大宮の地で咲き誇る


有言実行。特大のインパクトを残した昨季最終節

彼の表情にはいつも、少年のようなあどけなさが残っている。21歳という年齢を考えれば不思議なことではないが、マイクを向けると少しうつむきながら言葉を選んで話し始めることが多かった。いかにもシャイな青年そのものだった。口数はそう多くなかった。

ちょうど一年前、レノファ山口FCでの新シーズン始動直後だったが、桜に大きいで「桜大(おうた)」という珍しい名の由来をたずねたことがある。彼は「詳しくは覚えてない。聞いてもすぐに忘れてしまうので」とはにかんだ。それが照れ隠しなのか、単に無頓着なだけなのか、それ以上踏み込むのは野暮だと感じさせるような、不思議な空気感を持つ選手だなと思ったのを今でも覚えている。

だが、ひとたびピッチに立てば、その印象は鮮やかに裏切られる。

ボールを持てば、一人、二人と相手をはがして力強く前進していく。推進力、スピード、キレ。そのどれもが山口では群を抜いていた。左サイドのペナルティエリア付近で彼がボールを持てば、スタジアムの時が止まったような静寂のあと、一気にボルテージが上がる。そんな期待を抱かせ、ワクワクさせてくれる選手だ。

大宮サポーターの脳裏には、昨シーズン最終節での彼の姿が焼きついているのではないだろうか。山口にとってはJ2生き残りをかけた最終決戦だったが、逆転ゴールを含む2得点を叩き出し、チームを勝利へと導いた。試合前、彼は「積極的にドリブルで仕掛け、チャレンジしまくってゴールを決めたい」と語っていたが、その時点でシーズン2ケタゴールという高い目標まであと二つ。プレッシャーがかかる大一番で、言葉どおりに目標を達成してみせた。この「有言実行」の力こそ、彼の真骨頂だ。

両足からの力強いシュートにヘディング、ドリブルと、ストライカーとしての武器は多彩だが、最も得意とするのは左サイドからカットインして右足を振り抜く形で、大宮戦で見せた42分のゴールこそが彼の持ち味だ。本人はそのゴールを振り返り、「カットインからのシュートはずっと練習していた形。いわきFC戦(第19節)で決めたときのイメージもあった。ゴールは見えていなかったが、反転してからは自分の感覚を信じた」と語っている。


ポジションチェンジで花開いた“運ぶ力”

大きな飛躍を遂げた一年だったが、順風満帆だったわけではない。開幕戦こそ右サイドハーフで先発出場してピッチに立ったが、それ以降はベンチを温める日々が続いた。しかし、春先のルヴァンカップでの起用を機にセンターFWとしての適性を見せると、第9節・カターレ富山戦でフル出場し、第11節・FC今治戦で初ゴールを挙げた。だが、前半戦で記録したゴールはわずか3得点。「もうちょっと結果がほしかった」と吐露した。

躍進が始まったのはサマーブレイク明けの後半戦だった。指揮官交代によってフォーメーションが変更され、2トップ下のシャドーで起用されたことが転機にもなった。その狙いについて、当時の中山元気監督は「彼には前を向いて運ぶ力がある。一人でも二人でもはがせる力は本当にすばらしい。彼の前にストライカーが常に2枚いる状況にしたい」と語っていた。チャンスメークを担い、攻撃の司令塔としてゴールに直結する役割。この新境地が、彼の才能をさらに開花させた。リーグ戦再開直後の第24節・藤枝MYFC戦では2ゴールを挙げ、その期待に結果で応えてみせた。

そして、残留争い直接対決も続いたシーズン終盤の7試合で5得点。降格圏で苦しむチームの中で一人気を吐き、山口の人々に希望を与え続けてくれた。

最終戦を終え、降格という苦い結果を背負いながら、「個人的な数字は悪くないと思うが、チームを降格させてしまったことに責任を感じる。この厳しい経験が自分のキャリアにつながっていく。この経験を無駄にしないようにしたい」と前を見据えた彼の眼差しは、山口で見せたどの表情よりも力強かった。


実直で愛される“サッカー小僧”

山口加入時の話に戻るが、サッカー以外の趣味や特技を聞くと「特にない」と答えた。それは「趣味を作るとそれに没頭してサッカーがおろそかになりそうなので、あえて作らないようにしている」というストイックさの裏返しでもあった。山口という地でサッカー漬けの日々を送り、唯一の息抜きは先輩に連れられて行ったゴルフだったという。サッカーを心から愛する“サッカー小僧”だから、先輩からもよくイジられ、可愛がられていた。

そんな彼が大宮という新たな地を選んだ。昨シーズン最終節に2ゴールを決めたことが、今回の移籍の要因になったことは想像に難くない。自らのゴールによってステップアップを勝ち取っていくストライカーへと成長を遂げた証だ。

大宮ではさらに強度の高い球際の厳しさや切り替えの速さ、ハードワークを求められることになるが、自陣まで戻って相手ボールを奪い取る姿をずっと見せてきた彼なら、その強度にもしっかりと順応できるはずだ。そして、キレのあるドリブルで相手をはがし、得意の右足を振り抜くだろう。

彼がどこまで伸びていくのか、どんな世界を見せてくれるのか。NACK5スタジアム大宮のピッチで誰よりも激しく、熱く躍動する姿を、山口の地からも楽しみに見守っていきたい。



田辺 久豊(たなべ ひさとよ)
2017年からサッカー専門誌「エル・ゴラッソ」の山口担当を務め、2026年1月にはWEBマガジン「レノマガ Powered by ロクダス」をタグマで開始。ピッチ上の自由な判断を尊重するサッカーの魅力に開眼し、サッカーの持つ主体的な輝きを伝え続けている。地域ニュースサイト「山口宇部経済新聞」編集長。

FOLLOW US