ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、今季名古屋グランパスから期限付き移籍で加入した加藤玄にフォーカスしたコラムをお届けします。長年クラブを取材しているオフィシャルライターの粕川哲男さんに、プレー面と内面の両方からその強みや魅力について執筆してもらいました。

【ライターコラム「春夏秋橙」】粕川 哲男
すでに「前進守備」を支える存在。ハードでクレバーなボランチ、加藤玄の魅力
どんなシステムでも、誰と組んでも高い守備の貢献度
大宮の中盤で確かな存在感を放っているのが、名古屋から期限付き移籍中の加藤玄だ。
明治安田J2・J3百年構想リーグにおいて、開幕から5試合連続で先発に名を連ねている。試合展開に応じた的確なプレー選択と冷静なゲームメークは、加入1年目の22歳であることを忘れてしまうほど。攻守両面で積極的にボールに絡む姿勢が、183cm、79kgという恵まれた体躯を、さらに大きく見せている。
とりわけ守備面での貢献度が高い。
第5節終了時点で、デュエル勝利総数はリーグ2位タイ、タックル総数は同5位、こぼれ球奪取総数は同6位タイ。迷いのないプレスで相手ボールを奪い、素早い反応でセカンドボールを拾い、思い切ったスライディングでピンチの芽を摘む。中盤で奮闘する背番号16が、守備陣の負担を軽減していることは間違いない。

今季、宮沢悠生監督は大宮の可能性を広げるため、さらには対戦相手とのかみ合わせも考慮して、選手の並びに変化を加えている。[4-2-3-1] [4-4-2] [4-1-4-1]などのシステムを基本としながらも、それに縛られることなく、試合中は選手たちが自らの判断で流動的に動く。そうしたスタイルの中、加藤玄は周囲と絶妙な距離感を築き、攻守のクオリティを維持している。
アウェイでの第5節・いわきFC戦は、「どちらも6番(守備的MF)でも8番(ボックス・トゥ・ボックスのMF)でもプレーできるのが強みで、良い関係を築けていると感じます。目がよく合うし、タイミングも共有できている」(加藤玄)と語っていた小島幹敏が出場停止となった中、中山昂大、さらには大宮デビューを飾ったカウアン・ディニースとも息を合わせ、中盤を引き締めた。
PK戦による敗戦には「勝敗や勝点に関係するプレーだったので、申し訳ないし責任を感じています」と言いながらも、「クヨクヨするつもりは毛頭ないし、次、自分がチームを勝たせるために良いプレーをしたい」と、力強く前を向いた。

オープンマインドで理路整然。より知りたくなる人間性
筑波大の卒業を待たずに名古屋入りした昨年、新人ながら副キャプテンに任命された事実が証明するとおり、精神面もプロフェッショナルを感じさせる。宮沢監督の信条で、今季のチーム目標でもあるオープンマインドも、彼の魅力の一つだろう。
「大宮の戦い方、俺たちの目指しているところは絶対に間違っていないと確信しています。これだけアグレッシブに守備をして、攻撃でも守備でも主導権を奪いにいくフットボールをしていれば、相手に対策されるし、こちらの狙いの裏を突かれることもある。それでも、ボールを奪い切ってゴールを決めるリターンのほうが間違いなく大きい。前線からの守備を外されることに対しては、いい意味で折り合いをつけるというか、ある程度は許容して、必要以上にネガティブにならずに受け入れていいと思っています」
前線から果敢に相手を追い込む「前進守備」を堅く信じて、拒絶反応を見せることなく、前向きな姿勢で取り組んでいるのだ。
自身やチームの課題には真摯に向き合う。良い時間帯と悪い時間帯の差が激しく、試合を通じたゲームコントロールに課題を残した第1節・松本山雅FC戦後には、「苦しくなった後半、ボールに触れなくなって、ポイントを作ることができませんでした。守備でパワーを使うところや、トランジションでボールを奪い返すところなど、高強度で連続して動き続けるところが、まだまだ足りないと感じました」と反省した。
2度リードされながらも最終的に逆転勝ちを収めた第2節・北海道コンサドーレ札幌戦後には、「対戦相手がそれなりに準備してくると、今日のようなやられ方をするとあらためて認識しました。それを上回るだけのインテンシティ、個人の守備能力、組織としての守り方も必要だと思います。特徴的なサッカーをしていると狙われる部分は必ず出てくるので、それに対する引き出しを持っておくことが大事なんだと感じました」と口にしている。
現状を冷静に見極め、レベルアップに必要なことを自分自身に言い聞かせる。そうした謙虚な姿勢も、彼が備える強みと言えるだろう。
取材者としては、プレー以外でも驚かされることが多い。質問に対して淀みなく返ってくる言葉は理路整然としており、頭脳明晰を感じずにはいられない。聞けば、幼いころから両親や祖父に勉強の大切さを説かれて育ったそうで、好きな科目は数学と英語。この春、無事に筑波大を卒業する予定で、卒業論文のテーマは「日本とヨーロッパのユース年代のプレー分析と比較」とのことだ。
一方、筑波大のバスケットボール部で活躍していた2歳上の姉から譲り受けた愛車は、25年以上前に生産中止となった国産車。ユニークなデザインが人気で、海外にもファンが多い。そんな名車の走行距離は16万kmを越えているそうだが、「うちの家族はみんな、ああいう車が好きなんですよ」と笑顔を見せて、大切に乗り続けている。
名古屋からの期限付き移籍期間は今年の6月30日まで。契約の行方は分からないが、残された時間は、それほど長くない。今後もピッチで見せるプレーを目に焼きつけながら、加藤玄の人間的な魅力にも、もう少し迫りたいと考えている。

粕川 哲男(かすかわ てつお)
1995年に週刊サッカーダイジェスト編集部でアルバイトを始め、2002年まで日本代表などを担当。2002年秋にフリーランスとなり、スポーツ中心のライター兼エディターをしつつ書籍の構成なども務める。2005年からオフィシャルライター。

