【ライターコラム「春夏秋橙」】いつもどおりに、やるべきことを。チーム最年長・笠原昂史の変わらぬ“16年目”

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、GK笠原昂史にフォーカスした記事をお届けします。自身を取り巻く環境が大きく変わってもブレることのない日々とその信念について、オフィシャルライターの戸塚啓さんに執筆していただきました。


【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓
いつもどおりに、やるべきことを。チーム最年長・笠原昂史の変わらぬ“16年目”


試合に出ていても、出ていなくても

プロ16年目のシーズンは、控えGKの立場から動き出した。

「やることは変わりません。毎週ゲームに向けて準備をしていく、というサイクルは変わらないですね」

明治安田J2・J3百年構想リーグは、3月15日までに6節を消化した。笠原昂史は開幕節からメンバー入りしているものの、ここまでピッチに立つことはできていない。

「試合に出ているか、出ていないかにかかわらず、ホントにいつもやることは変わらないんですね。トレーニングをしっかりすることが自分のやるべきことで、今だったらゲームに出ていたらなかなかできないことを、やったりすることもできる。試合に出ていないことを、僕自身はネガティブにとらえていないんです。いつもどおりに試合へ向けての準備をしつつ、よりチャレンジできているかなって思いますね」

長いプロキャリアでは、試合に出られなかったシーズンを経験している。シーズンの半分ほどの出場にとどまったことがあれば、数試合の出場に終わったこともある。舗装された道を真っすぐに突き進んできたわけではないから、自分の置かれた状況を冷静に受け止めて、一日を大切に過ごすことができている。メンタルが波打つようなところは見えない。

「そんなことないですよ」と、笠原は遠慮がちに否定する。「僕は全然、メンタルが安定しているとは思わないし、メンタルが強いとも思っていません」と言う。

「ここにいる選手は、全員がゲームに出ることを目指してトレーニングをしているわけですよね。毎週が試合へ向けた選考会じゃないですけれど、毎日、毎日、いろいろな思いを抱えながら、みんながトレーニングをしている。その中で、難しい思いを持っている選手も多いと思うし、それは試合に出ていても、出ていなくても、変わらないことだと思うんです」

4人のGKと28人のフィールドプレーヤーの中で、メンバーに入るのは2人のGKと18人のフィールドプレーヤーに限られる。選手たちはスタメン、サブ、メンバー外という自分の立ち位置を、試合のたびに認識させられる。さまざまな思いに駆られながら、長いシーズンを過ごしているのだろう。

「試合に出ているときだって悔しさは感じるし、チームのことや自分のプレーについて、絶えず考えている。みんなが苦しみながらシーズンを過ごしていると、僕は思います」

コーチやチームメートが変わっても

今シーズンからGK担当のスタッフが変わった。2024年から2シーズンともにした高橋範夫GKコーチが退任し、川原元樹ヘッドオブゴールキーピングの下でトレーニングに励んでいる。

「GKコーチが変われば、いろいろなものが変わります。今シーズンからモトさんが来て、新しいことにチャレンジしている部分もあるし、それまでとは違う刺激を受けています。GKコーチによって見てくれる目線も違いますし、理想とするGK像も違うところがあるでしょうし。いろいろなコーチとやることで、プレーの幅は広がると思います。一人ひとりが日々レベルアップしよう、という気持ちでトレーニングしていると思いますね」

若いチームメートが増えた。「20歳も離れている選手もいますしね」と笑う。優しい笑顔のままで話す。

「何か一つそういう選手たちの手助けになったらいいし、彼らのエネルギーももらいながらやっています」

チーム最年長である。「そこはあまり意識していないというか。GKとフィールドプレーヤーでは、またちょっと意味合いも変わってくるかなとは思います」と言うが、その存在感がチームをさりげなく包み込んでいる。

「チームに対して少しでもいい影響を与えられたら、といつも思っています。今までも何か変わったことをしてきたわけじゃないし、ひたすらに、地道にやるというか、もうそれしかできない人間ですから」

それで、いいのだ。それが、いいのだ。37歳の笠原が「ひたすらに、地道に」という言葉どおりの姿勢を示すことで、チームは引き締まっていく。

「そう言われるとプレッシャーですね」と、また小さく笑う。「そういう姿勢を見せなきゃいけないですね」と、力みのない声で続ける。

「好きなサッカーを毎日やることができている、というのがやっぱりあります。(石川)俊輝なんてケガから戻ってきて、ホントに誰よりも練習を楽しんでいるように見えます。以前からそうでしたけど、ホントにひたむきにボールを追いかけているなあ、って。キャリアが残り少なくなっている中では、かける思いというのは若い選手よりも僕らのほうがあるんじゃないかと思うんです。若い選手にそういう気持ちがないというわけではなく、そこはなんていうか、そうだろうなと」

大宮は開幕4連勝の好スタートを切った。その後は2戦連続で勝利を逃しているが、EAST-Bグループで上位を争っている。

「僕自身は自分にできることに集中して、やっていくだけだと思っています」

今日の自分にできること、やるべきことを、淡々と、黙々と、精度高く。そしてまた、明日も、明後日も、同じように。

笠原の思いは、ただ一つ。

チームに貢献するために、最高の準備をしていく。



戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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