【ライターコラム「春夏秋橙」】覚醒、泉柊椰。その背景を語るうえで外せない“二度の壁”

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、開幕から好調を維持する泉柊椰にフォーカス。覚醒の背景にある、過去2年間における二度の進化とは。オフィシャルライターの粕川哲男さんに執筆していただきました。


【ライターコラム「春夏秋橙」】粕川 哲男
覚醒、泉柊椰。その背景を語るうえで外せない“二度の壁”


一度目、攻守両面の役割が増した加入初年度

「僕の人生、結構ずっとそうなんですよね。壁にぶち当たってからが勝負というか、壁に向き合っている最中は苦しいんですけど、そこからが勝負だと思っています」

泉柊椰は、大宮に加入した2024年からここまで、少なくとも二度、壁に直面している。ともに新しいポジションに挑戦するというもので、それらの壁を乗り越えてきたからこそ、今季の快進撃がある。

最初の壁は1年目。慣れ親しんだ左アウトサイドではなく、ウイングバックを任されたことで訪れた。ドリブルで勝負してきたウインガーは、攻守両面の役割やアップダウンによる負荷が増すポジションで、苦悩した。

ヴァンラーレ八戸との開幕戦で2得点を叩き出したときのような輝きは薄れ、守備面で奮闘する姿が目につくようになる。ただ、当時の長澤徹監督は泉を先発で使い続けた。「なんで自分が先発なのか……」。ウイングバックで貢献できる選手はほかにいるのに、とも取れる発言を聞いたのは、得点を奪えずにいた5月だったと記憶している。

その後、泉は真剣勝負を重ねることで成長し、壁を乗り越えた。第28節のギラヴァンツ北九州戦で「スタジアム全体が盛り上がってくれたことに感動して泣きそうになった」と振り返った、自身にとって27試合ぶりとなる得点を決めると、J2昇格を達成した第32節の福島ユナイテッドFC戦でも得点を奪うなど、輝きを取り戻した。

二度目、内側でのプレーに挑んだ昨季終盤

二度目の壁は昨季の終盤。長澤監督からバトンを受け継いだ、宮沢悠生監督が採用したダイヤモンド型の中盤への適応に苦しんだ。サイドに張らず、内側に絞った状態で守備を行ない、そこから攻撃に出ていくという責務に戸惑った。

「相手のボランチをケアするなど、やることが増えました。体力を使った状態で仕掛ける感じになるので、難しいしキツい」と素直に認め、最大の武器であるドリブルに関しては「感覚がなくなっちゃった感じですね」と、自嘲気味に話した。

シーズン途中加入の津久井匠海が同じポジションで活躍する中、第35節のブラウブリッツ秋田戦ではリーグ戦で73試合ぶりに出場なしを経験した。それでも「一皮むけてみんなを楽しませられるよう、もう少し頑張らないと」と自分に鞭を打ち続けたことで、守備面の改善に加え、高強度のランニングが可能になり、ピッチ中央でのプレークオリティも向上した。

迎えた実りのとき、8試合で6ゴール2アシスト

迎えた今季、開幕から8試合連続で先発して6得点2アシスト。開幕前に口にしていた「結果にこだわりたい」という思いを、しっかりと数字に残している。

左サイドで誇示している存在感は大きく、宮沢監督も「柊椰は去年、違うポジションで苦しんだけど腐らず頑張ってきて、今年自分の良さが出るようになった。守備でも自分のやるべきことを理解していて、成長が目に見えて分かる」と、評価している。

これまで自身のクオリティを上げること、自身の成長をチームの勝利につなげることに注力してきた泉が、結果を強く意識するようになったのには理由がある。

「海外とか上のレベルに行きたいという目標がある中で、最初に見られるのは数字です。年齢的なタイムリミットを考えると、今が一番商品価値のつく年齢で、ここからどんどん下がっていく。だから、オフシーズンにゴール、アシストともに増やしたいという思いを整理して、今季は結果にこだわりたいと思うようになったんです」

第7節のジュビロ磐田戦では、自ら得たPKの場面で「いきます」とキッカーを志願し、見事にゴールネットを揺らしてみせた。公式戦でPKを決めたのは、Jリーガーとなってからは初めてのことだった。

ゴールにこだわるどん欲な姿勢は、シュート数にも表われている。8試合を終えて25本はリーグ3位。バイタルエリアに進入する回数、ペナルティエリア内でパスを受ける回数も増えており、クロスに合わせたヘディングシュートも2本決めている。

ただ、泉自身は成績に満足しておらず、好調だという自覚もない。

「自分の中では、シュートを打っているわりにリターンがそこまでないと思っています。プラスもうちょっと個人で突破できるんじゃないかという思いもあって。チームの調子が良いときに点を取れているとは思いますが、閉塞状態になったときに何ができるか。悪い流れのときにゲームチェンジするようなプレーが、まだ少ないと感じています」

同じく結果を残している山本桜大の存在も、刺激になっている。

山本は8試合で6得点3アシスト。シュート数は28本でリーグトップ。両雄の競演は楽しみでしかないが、泉が「桜大に負けたくないですね、得点もアシストも」と語るのも無理はないほどの好成績である。

いずれにせよ、3年目の泉に迷いはない。

「一昨年からの積み上げ、去年からの積み上げで、ちょっとずつやることが明確になって、できることも増えている感覚があります。あとはゴール前のクオリティを磨いて、数字を積み重ねられるか。今後チームがどういう方向に向かっていこうと、自分が意識するのはゴールとアシストを増やすこと。ウィークを改善するのではなくて、いかにストロングを発揮するかのフェーズに入ったんじゃないかと感じています」

慣れないポジションに挑んで、その壁を乗り越えた経験を力としている背番号14は、大宮の左サイドで、さらなる飛躍を誓って突き進んでいる。



粕川 哲男(かすかわ てつお)
1995年に週刊サッカーダイジェスト編集部でアルバイトを始め、2002年まで日本代表などを担当。2002年秋にフリーランスとなり、スポーツ中心のライター兼エディターをしつつ書籍の構成なども務める。2005年からオフィシャルライター。

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