【ライターコラム「春夏秋橙」】特別な場所、国立競技場の記憶と5月6日に刻まれる新たな歴史

ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は、5月6日に国立競技場で行われるジェフユナイテッド市原・千葉との上位対決に向けた特別コラムです。2002年からクラブのオフィシャルライターを務める戸塚啓さんに、国立で戦った過去の試合を振り返ってもらいつつ、“聖地”で行われる試合の意義について記していただきました。

【ライターコラム「春夏秋橙」】
特別な場所、国立競技場の記憶と5月6日に刻まれる新たな歴史


一度目、光をつかんだ東京VとのJ1リーグ戦

最高の舞台で、最高の戦いが繰り広げられる。

5月6日のJ2第14節は、今季のJ2では唯一となる『THE国立DAY』だ。Jリーグ開幕以前からあまたの名勝負が繰り広げられてきた日本サッカーの聖地は、新装なった現在も印象的な試合を作り出している。

RB大宮アルディージャが国立で戦うのは、今回が三度目となる。過去二度はいずれも2005年だ。三浦俊也監督の下で、クラブ史上初めてJ1で戦ったシーズンである。

一度目は8月21日のJ1第19節で、東京ヴェルディとのアウェイゲームだった。GK荒谷弘樹がケガの影響でベンチスタートとなり、CB奥野誠一郎が出場停止、CBトニーニョも右足の違和感でメンバー外だった。攻撃陣ではブラジル人FWクリスティアンが、直前に母国のクラブへ電撃移籍した。


【当時の公式記録】

主力選手不在の影響か、開始早々の9分に先制を許す。前半は[4-4-2]の組織的な守備が機能せず、三浦監督をして「今シーズン一番悪かった。ウチは9位で相手は17位だが、どちらが(J2降格圏の)17位なのか分からないような」という内容だった。

後半開始とともに、古巣対戦のFW桜井直人が負傷交代し、FW森田浩史(現・U15コーチ)が投入される。66分にはMF久永辰徳に代わって、MF島田裕介(現・コーチ)がピッチに立つ。2004年のJ2で何度となく決定的な仕事をした島田と森田のホットラインに、指揮官は活路を見いだそうとする。


【途中出場した島田(右)】

同点弾が生まれたのは76分だった。MF藤本主税の浮き球のパスからFWトゥットがペナルティエリア左に進入し、オウンゴールを誘ったのだった。

1-1で引分けた試合後、トゥットは「後半は自分たちの戦いができた。今日負けると残留争いに巻き込まれてしまうかもしれないので、勝点1は大きい」と振り返った。国立でつかんだ勝点は、最終的にJ1残留へつながるものとなる。


【オウンゴールを誘発したトゥット(10番)】


二度目、激闘となった浦和との天皇杯準決勝

二度目の国立見参は12月29日だった。天皇杯準決勝で実現した浦和レッズとの『さいたまダービー』である。大宮がホーム扱いとなり、冬晴れの午後にオレンジのファーストユニフォームが映えた。


【当時の公式記録】

同年、浦和とはJ1リーグとナビスコカップ(現・ルヴァンカップ)で二度ずつ対戦していた。「5回目の対戦なので、お互いに強みも弱みも分かっている」(三浦監督)という状況で、開始早々にアクシデントに見舞われる。桜井が負傷交代を余儀なくされたのだ。代わってFW若林学が投入される。

23分に左CKからマリッチにヘディングシュートを決められるが、3分後に直接FKから同点に追いつく。久永がヒールで動かしたボールを、CB片岡洋介が右足で蹴り込んだ。失点シーンでマリッチに付き切れなかった片岡が、スコアをタイに戻したのだった。


【同点ゴールに歓喜を爆発させる片岡(19番)】

後半に入って62分、長谷部誠に右足ボレーを決められ、再びビハインドを背負う。1-2のまま終盤を迎えるが、89分にオレンジの歓喜がはじける。GK荒谷のキックから森田が相手GKと競りながらヘディングに競り勝ち、CB冨田大介が頭でプッシュしたのだ。


【土壇場の89分に同点ゴールを決めた冨田】

土壇場で延長戦へ持ち込んだ反発力は見事だったが、地力の差がじわじわと表われていく。延長前半の95分と102分に失点する。延長後半に若林がペナルティエリア内左から決定的なシュートを放ったが、ネットを揺らすことはできない。2-4で敗れたのだった。

試合後の三浦監督は、「力の差はあった」と語った。その上で、「リーグ戦は残留、リーグカップはベスト8、天皇杯はベスト4。(J1)1年目としては悪い成績ではなかったと思う」と、シーズンを総括した。延長まで持ち込んだ選手たちには、ファン・サポーターから拍手が送られた。2点目を決めた冨田は、「決勝でもう一度、国立でやりたかった。でも、レッズとは(2005年に)4回やって1勝3敗だった。二度追いついたのは少し成長できたところかな」と話した。


上位対決、そしてダブルヘッダーの意義

天皇杯でも途中出場した島田コーチは、「天皇杯準決勝でさいたまダービーを戦うことができたのは、選手として貴重な経験でした」と振り返る。その上で、「国立競技場(で戦うこと)は選手としてテンションが上がる。モチベーションも自然に上がって、ボール際の攻防もプレッシャーも激しくなる」と、その舞台効果にも触れる。

今回は首位を走る千葉との直接対決だ。島田コーチは「どちらも上位にいるので、勝てば相手の勢いを止めて、こちらは勢いをつけられる。選手たちはプライドをかけて戦ってくれるはず」と期待を込める。

千葉の小林慶行監督は、東京Vや大宮などでプレーした。2005年の対戦では東京Vのベンチから試合を見つめている。大宮ではキャプテンも務めた敵将との対戦も、今回の『THE国立DAY』の注目ポイントにあげられるだろう。

また、16時キックオフのJ2リーグに先駆けて、12時からはWEリーグのジェフユナイテッド市原・千葉レディースvs大宮アルディージャVENTUSの一戦も国立で行なわれる。女子チームを持つ両チームだからこそ実現したダブルヘッダーは、日程の都合などでなかなか実現しにくい男女2チーム同時応援を可能にした。それぞれのチームをより深く理解する好機となり、クラブへのロイヤリティを強く確認できる一日にもなりそうだ。

国立競技場という空間は、忘れ得ぬ一戦を生み出す力を持つ。両チームのファン・サポーターがスタジアムを二分し、互いの声援がぶつかり合い、ピッチ上のバトルが白熱していく。今回の2試合もクラブの歴史に刻まれるものとなり、5年後、10年後、20年後にも語り継がれていく。



戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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