選手の内面に迫ったロングインタビュー企画『INSIDE』。今回はプロ2年目となり、覚醒の期待が高まる関口凱心選手にオフィシャルライターの戸塚啓さんが話を聞きました。
聞き手=戸塚 啓
覚醒へ向かって、一歩ずつ歩んでいる。
プロ2年目の関口凱心が、このところ出場機会を増やしている。5月6日のJ2第14節・ジェフユナイテッド市原・千葉戦でシーズン二度目のスタメンに名を連ね、翌節のベガルタ仙台戦にもフル出場した。さらに藤枝MYFCとの第16節でも、試合開始から終了までピッチに立った。
プレータイムを増やしている中で、関口自身はどんな思いを抱いているのか。手ごたえをつかんでいるのか、物足りなさを感じでいるのか。23歳の心の内側に触れていく。
千葉戦で抱いた悔しさと、それを生かした仙台戦
──プロ1年目の昨季は、リーグ戦10試合出場でプレータイムは182分。スタメンは1試合でした。今季は第16節終了時点で14試合に出場し、プレータイムは471分です。自身のここまでのパフォーマンスを、どのように振り返りますか?
「やっぱり去年よりも出場機会が増えていて、持ち味の対人プレーを出せるようになってきたかな、と感じています」
──国立競技場での千葉との上位対決で、今季二度目の先発出場を果たしました。
「改装される以前も含めて、国立でプレーするのは初めてでした。試合前のアップでピッチに出た瞬間、大宮のファン・サポーターが目に入って、スタジアムの大きさを感じて、観衆のみなさんに包まれているような感じがしました。スタジアムの大きさとか歓声の大きさを考えると、選手同士の声が届かないのかな、というのがあって。実際にそうだったので、試合中にプレーが切れたりしたところでコミュニケーションを取って、細かな修正をしたりしていました」
──自身のパフォーマンスについては?
「試合には勝ちましたけど、個人的には悔しい気持ちのほうが大きかったです」
──千葉の椿直起選手とのマッチアップが注目されました。
「1対1で相手を完封するのが、自分に与えられたタスクでした。一歩も先にいかせないぐらいの気持ちで臨みましたが、前半に2回、後半に1回、ちぎられました。それがやっぱり、悔しくて。相手は技術的にうまくて、駆け引きのタイミングも上手でしたけれど、それでも抑えないといけない。ハーフタイムに(長澤)徹さんから、『椿を止めるのはお前にしかできないぞ』と言われて、こっちのシステムが変わってマッチアップがハッキリしたのもありましたし、気持ち的にも覚悟は固まったので、後半のほうが少しは……でもやっぱり、悔しかったですね」
──長澤監督から、試合後にどんな言葉をかけられましたか?
「徹さんからは『お前のほうが足速いだろう』って言われました。『謙虚なのはいいことだけど、もっと自信を持ってやっていい』とも言われました」
──千葉戦の悔しさを、翌節の仙台戦に生かしましたね。相対するオナイウ情滋選手とのマッチアップで、ハッキリと優位に立ちました。
「最初からバチバチいこうと思っていました。相手に怖さを与えるじゃないですけど、ファーストプレーはいつも以上に意識しました。一発目でガッツリいく。ファウル覚悟とかではなくて、ハッキリとしたプレーをするのは意識しますね。審判の方も、最初は(ファウルを)取りにくいと思うので」
──結果的に試合の入りから、イメージどおりにプレーできましたか?
「立ち上がりは、まあまあでした。前へ出ていくこともできました。チャンスを作ることはできたので、得点とかアシストへつなげるのは今後の課題かなと」
危機感から始めたコアトレーニング
──攻撃と守備のプレーのバランスについては、どう考えていますか?3バックのウイングバックと4バックのSBでは、立ち位置も役割も変わってきますが。
「自分の持ち味は守備の対人プレーなので、まずは守備からという意識です。そこから試合に入っていったほうが、自分の良さが出せると思います」
──攻撃では推進力を発揮しています。自陣からでも力強くボールを運ぶことができています。
「そこは自分の武器というか、プロに入ってからも通用するなと感じている部分です。持ち味をどんどん出していきたいので」
──プロ入り当時に比べると、体が大きくなっている印象です。
「筋肥大(筋肉量を増やすこと)は意識していないですが、コアトレーニングはやっています」
──体の内側の筋肉を鍛えている、と?
「そうですね。去年からやっているんですけど、今年になって少しずつそれが生きてきているのかな、と。去年の4月からチームのトレーニングとは別に、パーソナルトレーナーとトレーニングをしています」
──それはプロ1年目となる2024年のシーズン始動を前に、手術をしたことも影響しているのでしょうか?
「手術をしたことが直接的に関係しているわけではないのですが、チームに合流してなかなか試合に絡めない中で、『このままでは練習についていくだけで精いっぱいだ、それじゃあ足りない』と感じて。チームの練習だけでは試合に出ている選手たちと差がついてしまう。何かやらなきゃいけない、という気持ちがありました」
──競り合いでもバランスが崩れない、崩れそうになっても持ち直せるのは、そのトレーニングの成果なのでしょうね。
「そうだと、いいんですけどね。体はそこまで大きくなっていなくて、体重も大学生当時と同じ73kgぐらいですけれど、内側の筋肉、特にお腹周りの内側が、厚みを増した感じです」
──パーソナルトレーナーさんから教えられたメニューを使って、自宅でもトレーニングをしたりするのでしょうか?
「いえ、トレーニングへ行ったときにしっかりやって、家ではリラックスしています。大学のときからオフはそんな感じで。(山梨学院大時代の)一学年上に平河悠選手(現ブリストル・シティ)がいたんですけど、寮の部屋が隣だったので朝練が終わったら朝食を摂って、お互いの部屋を行き来していました。一緒にトレーニングもしていましたね」
──身近な存在だった平河選手が五輪に出て、Jリーグからイングランドのクラブへ移籍する。それって、どのような感覚でしょう?
「大学では一緒に試合に出ていましたし、ホントに身近に過ごしていたので。自分にもそういう可能性があると思うことができますし、負けられないっていうのはすごくあります。追いつきたいし、追い抜きたいので」
【FC町田ゼルビアからイングランドに羽ばたいた平河選手】
プレミアリーグ現地観戦で感じたこと
──さきほど、去年はなかなか試合に絡めなかったというお話がありました。長いシーズンでは、試合に絡んでいても本来のパフォーマンスを出せないことがあります。それが数試合続くこともある。そういった自身の状態が良くないなと感じるとき、あるいは試合で課題を突きつけられたときに、関口選手はどうやって乗り越えていきますか?
「いろいろあるとは思いますが……去年のシーズンで試合に絡めなかった時期は、もうやるしかないと思っていました。練習量を増やすしかないなって。試合に出ている選手よりも多く練習しなかったら、どんどん離されていってしまうので。そうなったら悔しいし、そもそも試合に絡めていないことが悔しいので、やるしかない、と」
──オーバートレーニングになってはいけないけれど、やれることはやる。できる限りのことはする、という。
「やり過ぎてケガをしたら元も子もないですし、体が重くなってしまうこともあるかもしれない。でも、そうやってキツい中でもやっていれば、試合中のキツい時間でも頑張れる。普段から追い込んでいれば試合でも頑張れるし、キツいことをキツいと感じないというか。僕はやっぱり練習することで課題を克服して、良い状態へ持っていきたいと思います」
──それはまさに、このチームがスタンダードとしている「練習は試合のように」ということですね。
「はい、そうですね」
──自分のプレーを映像で振り返りますか?
「観ます。観るタイプじゃないって思われているような気がしますが(苦笑)、わりと観ています」
──確かに(苦笑)。感覚的にプレーするタイプ、と思われているかもしれませんね。
「身体能力だけで勝負するのは、やっぱり厳しいです。去年のJ3でも、頭を使ってプレーしなきゃいけないと感じましたし、今年のJ2でもそれは強く感じるところなので」
──自分のプレーを映像でレビューすると、気づきがありますか?
「あります。試合中は視野が狭まっているな、と気づいたり。たとえば、相手が自分の右側から来ているから左側へパスを出したけれど、違うパスコースもあったな、とか。試合中の感覚ではここが見えていたけれど、なんでこっちが見えていなかったんだろう、とか。逆に、しっかり見るべきところが見えていた、ということもあります。映像で振り返ることで、『この場面ではなんでこっちへパスを出したんだろう』、『なんでもう少し自分で運ばなかったんだろう』といったことを、頭の中で整理して次のプレーに生かせるようになります」
──なるほど。
「練習の動画も観ます。狭いエリアの練習メニューが多いので、『ちゃんと見えてるな』というプレーがあれば、『ここは見えてないな』というのもあります」
──自分のプレーだけでなく、海外のクラブの試合も観たり?
「観ますね。(インタビューの数日前に開催された)バルセロナとレアル・マドリーのクラシコも観ました。各国リーグのビッグマッチとかは、単純に観たいなというのもあるので」
──好きなリーグは?
「弟がイギリスへ留学していて、オフに会いにいっています。そのときに、プレミアリーグの試合をスタジアムで観ました。去年のオフはマンチェスター・シティのスタジアムで、マンチェスター・ユナイテッドとのダービーを観ました」
──イングランド・プレミアリーグのスタジアムは、NACK5スタジアム大宮などの日本のスタジアムとは、また違う臨場感がありますよね。メインスタンドとバックスタンドの最前列はピッチが目の前で、選手たちとほぼ目線が同じのようで。
「日本とは全然違いますよね。まさに目の前で観たかったので、かなりピッチに近い席を選んだら、ホントに迫力が違いました」
──将来的にはヨーロッパでプレーしたい、という希望もあると思います。行きたいリーグをあげると、いまお話に出ているプレミアリーグでしょうか?
「はい、一番行きたいのはプレミアリーグですね」
自炊、温泉、そして同期の話
──レッドブル体制になったことによる変化についてお聞きします。筋トレなどの器具がこれまでよりも充実したり、食事がバイキングになった、といったことが伝えられています。
「ご飯がバイキングになったのは、個人的にすごくうれしいですね。朝は納豆とご飯などの簡単なもので済ませて、夜は基本的に自分で考えるので、お昼にいろいろな種類のものを選べるのはありがたいんです」
──昨年5月の村上陽介選手との対談では、「朝と夜は自炊をしている」と話していました。
「あのときも話しましたけど、夜は鍋が多くなりますね(苦笑)。この前は親子丼を作りました。けっこう美味しかったですよ。大学では3食自炊だったので、その経験が生きていますね」
──自炊をしながら、食べるものにも気をつけている?
「グルテンフリーを意識するようになりました。パンとかパスタとかラーメンとかも好きなんですけれど、オフ明けから試合にかけてはあまり摂らないようにしています。試合前日もパスタとかうどんは意識的に食べずに、お米を口にするようにしています」
──試合当日の食事にも気をつけて?
「ホームゲームでは、試合当日のクラブハウスで軽食が出ます。僕が好きなのは、きなことあんこのお餅ですね。アウェイゲームでも軽食はあるので、おにぎりとかフルーツを食べます。気をつけることで言えば、水分をしっかり摂ることですね」
──公式サイトのQ&Aで「試合前に必ずすること」の質問に、「水をたくさん飲む」と答えていますね。
「水分摂取は大事だと思います。ホントにたくさん飲みますよ。14時キックオフの試合当日だったら、朝起きてから500mlのペットボトルを4本は飲むかなあ。試合の直前には、スポーツドリンクを飲みます」
──試合当日のルーティンはありますか?
「特にないんです。これとこれは必ずやるとか決めて、もしそれができなかったときに、すごく気になると思うので」
──確かに、ルーティンに引っ張られてしまうかもしれません。
「そうなんですよね。だから、自然体でいつもどおりに過ごします」
──スタジアム入りする選手たちの多くは、音楽を聴いています。関口選手は?勝負曲などがあったり?
「音楽は聴きます。気持ちを高めていくような、アップテンポの曲が多いですね。このアーティストのこの曲を必ず聴く、というのはないですね」
──勝負曲を決めちゃうと、ルーティンになっちゃいますからね。それでは、毎週リーグ戦に絡んでいく生活のリズムには、慣れてきましたか?自分なりのリズムは作れていますか?
「そうですね。これまではあまり気にしていなかったんですけど、さっきも言ったように食事に気をつけるようになりましたし、湯船につかるようになりました。大学のころから温泉は好きなので」
──温泉が好きだというお話は、昨年5月の村上選手との対談でも紹介してくれました。「温泉でバイトをしていた」と。
「今も変わらずに温泉は好きで、週一くらいのペースで行きます。サウナに入るのも、電気温泉とかジェットバスに入るのも好きなんで。強めのジェットバスが好きなんです」
──村上選手との対談では、「一人でも行く」とお話していました。そこも変わらず?
「変わらないですね、一人で1時間半ぐらい、ゆっくりします。パーソナルトレーニングが夕方からなので、それが終わったあとに一人で行くこともあります。もちろん、誰かに誘われたら一緒に行きますよ」
──大卒同期加入の藤井一志選手、村上選手は、昨年から変わらずに「刺激し合う存在」ですか。
「はい、そこは変わりません。ポジションは違いますけれど、彼らが試合に出たら応援するし、結果を残せばうれしい。自分も頑張らなきゃ、と思います」
──アカデミーでともに戦った選手もいます。
「今年の新加入選手で言えば、(福井)啓太と中山(昂大)は、Jr.ユースで一緒にやっていました。今年は(ツエーゲン金沢に)期限付き移籍している大澤朋也も、アカデミーのチームメートです。そういう選手たちとクラブのエンブレムを背負ってまたサッカーができるのは、シンプルにうれしいですよね。時間は経っているけど一緒にやったことがあるので、『今ならここへパスを出すだろうな』というのがなんとなく分かります」
──プレーで変わらないところはある?
「ありますね。練習でも試合でも、やりやすいところはあります。あとはやっぱり、普段からよく話します」
ここからより増していく“右”の重要度
──第3節の熊本戦で、プロ初のアシストを決めました。次はJ2での初ゴールが期待されます。
「自分でもゴールは欲しいと思っています」
──去年はJ3第33節・FC今治戦で、J3優勝を決めるゴールを決めました。
「大事な場面でチームを救うようなゴールを、J2でも決めたいと思っています。ただ、さっきも話したように、まずは守備をしっかりやるという意識です。そのうえで、チャンスを逃さずにどんどん前へ出ていく。ここだ、という場面では迷わずに出ていきたいです」
【昨季のJ3第33節・今治戦で優勝を手繰り寄せる同点弾を決めた】
──関口選手が1対1で競り勝ったり、攻め上がってクロスを上げたりすると、スタジアムが盛り上がりますね。歓声が沸きます。
「特にNACK5スタジアム大宮では、ファン・サポーターのみなさんの歓声がよく聞こえます。すごく勇気をもらえますし、ギアが上がります」
──チームはシーズン序盤からここまで、安定感のある戦いを見せています。
「J2リーグ全体を見ると、実力がすごく拮抗していると感じます。どのチームも力がある。自分たちはJ3優勝でJ2に昇格してきたチームなので、20チームの中で18番目からのスタートです。なので、チャレンジャーの気持ち、相手に襲いかかるというのは意識しています」
──Jリーグデビューは特別指定選手だった2023年のJ2リーグです。J2でプレーするのはそれ以来となりますが、J3との違いを感じますか?
「J3に比べると、相手が仕掛けてくる場面が多いですね。そこはやっぱり楽しい。自分のプレーについては、まだまだですね。もっとできると思いますし、もっとやらないといけないです」
──シーズン序盤から好調を維持していることで、対戦相手の変化は感じますか?大宮の長所を、ハッキリとつぶそうとしてくるようになった、とか。
「僕自身はまだスタメン出場が少ないので、そういうところは感じません。基本的に相手のことは意識しないで、試合開始から自分の良さを出していくことに集中しています」
──最近は左サイドの泉柊椰選手の突破を、警戒してくるチームが増えていると感じます。それだけに、右サイドからの攻撃が重要度を増していく印象です。
「左サイドからの攻撃が多いので、右サイドも活性化したいですね。(右シャドーの)カプリーニとはお互いにスタメンじゃない時期から同サイドでプレーしてきたので、自分が走ったら(パスを)出してくれますし、関係性はいいと思います。どんどん要求もしていますし、もっと突き詰めていきます。アシストと得点にこだわりたいですね」
キャリアアップのきっかけが、選手にはある。あの試合がきっかけでブレイクしていった、と周囲が認めるような試合が。
プロ2年目の関口にとって、5月の千葉戦と直後の仙台戦はキャリアに影響を及ぼすものとなった。今季の彼が成長の歩幅を一気に拡げていったとしたら、周囲はあの2試合を思い返すに違いない。千葉戦の悔しさと仙台戦の手ごたえが、関口にとってブレイクスルーのきっかけになった、と。
覚醒へ向かって一歩ずつ、着実に歩んでいる。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。