ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回は6月15日に行われたV・ファーレン長崎とのアウェゲームを現地取材したオフィシャルライターの粕川哲男さんに、長崎スタジアムシティの魅力、そしてそこから見えてくる大宮の街と新スタジアムの未来について綴っていただきました。
【ライターコラム「春夏秋橙」】粕川哲男
試合がない日も楽しめる。長崎スタジアムシティの魅力と、そこから考える大宮の街の未来
「3時間前到着」でもまわり切れない店舗数
長崎スタジアムシティに行ってきた。
J2リーグ前半戦のラストゲーム、V・ファーレン長崎戦の会場は、昨年10月に正式開場した話題の「PEACE STADIUM Connected by SoftBank」(通称ピースタ)。第3節以来の首位に立てる可能性があった大一番への興味だけでなく、サッカー専用スタジアムそのもの、隣接するホテル、アリーナ、商業施設を、自分の目で確かめておきたかったのだ。
長崎空港からバスに乗り、高速道路も使って45分。長崎駅前で降り、路面電車も通る大通りを歩いてスタジアムへ向かう。残念過ぎる雨となったが、15分ほど歩くとベージュ色の巨大な建物が見えてきた。左上に「STADIUM CITY HOTEL NAGASAKI」の文字。あれが客室や宿泊者専用プールからスタジアムを一望できるというホテルか。あの向こうにどんなスタジアムがあるのか、期待が膨らむ。
ピースタの足元まで来ると、建造物としての迫力に圧倒される。要塞のようなスタジアムの南側には、スーパーマーケット、カフェ、土産物屋、ドラッグストアなどが並び、長崎スタジアムシティ直営の回転寿司店まであることに驚いた。
グルメも充実。2階の洋食店ではトルコライス、飲食店が並ぶ「フードホール」では長崎ちゃんぽん、3階コンコースでは佐世保バーガーといった、長崎名物を楽しめる。スイーツやスタジアムで醸造されるクラフトビールなどもあり、幅広い層を満足させるラインナップなので、試合がない日でも楽しめそうだ。
大宮から観戦に来ていたサポーター歴20年以上という60代の女性は、「フードコートは雨に濡れないし、かなり広いので気に入りました。あと、ホームとアウェイのサポーターが隔離されずに一緒に食べられるのもすごくいい。さすが“ピーススタジアム”って感じですよね」と笑顔だった。
ちなみに、長崎スタジアムシティ内の買い物はオールキャッシュレスとなっており、現金は使えない。決済手段はクレジットカードや電子マネーなど。現金派なので最初は戸惑ったが、現金をチャージできる機械があるので問題なく乗り切れた。
飲食オーダーは「モバイルオーダー」と「セルフオーダー」の二通り。自身のスマホか施設内の機械で注目・会計する仕組みだ。事前に商品を頼んで、でき上がったら取りにいけばいいので、お店の前で並ぶ必要がない。長い行列を見てスタグルをあきらめる、なんてことがないのがうれしい。
ショッピングモールには「UNDER ARMOUR」などのスポーツブランドや、アウトドア製品を扱う店もあり、当日は多くの人で賑わっていた。余裕を持って試合開始3時間以上前に着いたのだが、気がつくとキックオフ時間が近づき、全部の店を見ることはできなかった。
「これまで行ったアウェイのスタジアムで一番」
スタジアム北側にあるオフィス棟1階にはコンビニ、2階には地図情報会社の「ゼンリン」が運営する地図柄グッズ専門店、10階には長崎県最大級のコワーキングスペースなどがあり、オフォシャルグッズを扱う「FLAGSHIP STORE」は3階にある。V・ファーレン長崎とB1リーグ所属のプロバスケットボールクラブ、長崎ヴェルカのアイテムがそろう。ここで、ヴィヴィくんのグッズを2点ほど購入した。
なお、オフィス棟の屋上には日本初となるサッカースタジアムの上空を滑走するジップラインがあり、国内初というビルとビルの間をつなぐラインを滑りながら、長崎の美しい街、山、海などを堪能できる。勇気がなくて体験しなかったが、日本で唯一のアクティビティであることは間違いない。
オフィス棟の隣にある長崎ヴェルカのホーム「HAPPINESS ARENA」は、ライブ会場に使用されるなどエンターテインメント性にあふれている。最近は平日にコンサートを開催するなど、コンスタントな集客を目指して努力しているとか。また、併設のクラブハウスで長崎ヴェルカの練習を見学できるだけでなく、アリーナの屋上にはフットサルコート、サブアリーナの屋上には3×3コートがあるので、観戦・観劇にとどまらず、実際に汗を流すこともできる。
試合前に話を聞いた大宮サポーターの坂尾彬さんは、満足した様子で「ひととおり見たけど、すごいですね。お店がいっぱいあって、サッカーの試合だけじゃなく買い物をしたり、食事をしたり、お土産を買ったり、いろいろな楽しみ方ができる。サッカー+付加価値ですよね。これまで行ったアウェイのスタジアムでは北九州や長野が良かったですが、ここが一番になりました。次回はぜひ、ホテルに泊まってみたいです」と、初めて訪れた長崎スタジアムシティの魅力を語ってくれた。
ピースタが生み出す迫力
キックオフ後も、スタジアムが醸す迫力に驚かされた。四方を覆う屋根のせいか、バックスタンド上にそびえるホテルのせいか、ファン・サポーターの熱い声が反響して、飲み込まれる感覚になる。とりわけ長崎のチャンスで繰り出される「入れろ」コールの圧力はすさまじかった。
試合後、この日もフル出場した小島はピースタの印象について「ファン・サポーターの声が響くので、(相手の)セットプレーのときの圧力がすごかったです。サッカー専用スタジアムで雰囲気もあるので、個人的には国立(競技場)よりこっちのほうが好きかな」と、選手目線の感想を教えてくれた。
試合後、ミックスゾーンで選手たちを待っていると、派手な光がピッチを照らし始めた。あとで調べてみると、「NAGASAKI STADIUM CITY NIGHT MIRAGE(長崎スタジアムシティナイトミラージュ)」というレーザーショーとのこと。5月~9月は、1日に2回、スタジアムをレーザー光線で彩るイベントを実施しており、誰でも無料で楽しめる。V・ファーレン長崎か長崎ヴェルカが試合に勝った日は、特別なショーが見られるそうだ。
「大宮スーパー・ボールパーク構想」を踏まえて
V・ファーレン長崎の親会社である「株式会社ジャパネットホールディングス」が、約1000億円を投じて造った長崎スタジアムシティには、「スタジアムを中心とした新しいまちから新しい長崎の風景をつくりだし、生活をより豊かにすることで長崎全体が活性化され、ワクワクで溢れるプロジェクトの実現」という事業ビジョンがある。
今回、初めて長崎スタジアムシティを訪れて感じたのは、サッカー、そしてスタジアムには、人を惹きつける大きな魅力があるということ。と同時に、スタジアムが日常的に人の集まる場所となれば、街全体のエネルギーが増し、人々の暮らしが充実するとも感じた。
RB大宮アルディージャにも新しいスタジアム建設への期待がある。現在のNACK5スタジアム大宮を再び改修するのか、新しい場所に新スタジアムを建設するのか。埼玉県が掲げる「大宮スーパー・ボールパーク構想」は、大宮公園の3つの競技施設(双輪場、野球場、サッカー場)を含むエリア全体の再整備計画の一環であるため、サッカー場だけに限った話ではない。大宮公園を管理する埼玉県、サッカー場の持ち主であるさいたま市との協議が必要になり、事が決まるまでは時間がかかるだろう。
その一方で、長崎で話を聞いた大宮サポーターの皆さんの多くが、「大宮公園の雰囲気が好き」「あの場所から離れてほしくない」「氷川参道からのアプローチは欠かせない」といった感じに、今ある環境への誇りや歴史あるスタジアムへの想いを口にしていた。
RB大宮アルディージャは新しいスタジアムに対して、どのような決断を下すのか。
クラブの財政を潤し、選手たちの士気を高め、ファン・サポーターを満足させる場所となるだけでなく、試合のない日でも人々が集まり、賑わいが生まれ、日々の暮らしや地域が豊かになるようなスタジアムであればいいなと、今回の長崎遠征をとおして感じた。
粕川 哲男(かすかわ てつお)
1995年に週刊サッカーダイジェスト編集部でアルバイトを始め、2002年まで日本代表などを担当。2002年秋にフリーランスとなり、スポーツ中心のライター兼エディターをしつつ書籍の構成なども務める。2005年から大宮アルディージャのオフィシャルライター。