ピッチで戦う選手やスタッフの素顔や魅力を、アルディージャを“定点観測”する記者の視点でお届けする本コーナー。今回フォーカスしたのは、8月17日の第26節・愛媛FC戦で5カ月ぶりに負傷離脱から復帰したアルトゥール・シルバ。オフィシャルライターの戸塚啓さんに、あらためて序盤戦で見せた凄みに触れていただきつつ、ここからの逆襲へ向けて抱く“想い”について、本人のコメントを交えながら書いていただきました。
【ライターコラム「春夏秋橙」】戸塚 啓
ついに復帰したボランチの核。アルトゥール・シルバが今、胸に宿す覚悟
5カ月ぶりの試合で見せた、変わらぬ強み
「アル」ことアルトゥール・シルバが、ついに戦列に戻ってきた。8月17日の愛媛FC戦で、およそ5カ月ぶりのJ2リーグ戦出場を果たしたのである。
2-0で迎えた80分に、谷内田哲平に代わってボランチの位置についた。試合の流れにスムーズに入っていくと、83分に自陣中央で相手ボールに足を伸ばす。スライディングでカットしたボールがイヨハ理ヘンリーにつながり、泉柊椰へ縦パスが入る。泉がワンタッチで落とすと、アルトゥールがパスを受けて前を向く。すぐにカプリーニへ縦パスを刺し込むと、3対2のカウンターとなる。アルトゥールがボールを奪い、攻撃のスイッチを入れたこのシーンから、津久井匠海の3点目が生まれたのだった。
アディショナルタイムを含めて15分強のプレーだったが、ボールへのアプローチとその強度、プレーと判断のスピードなどにおいて、物足りなさを感じさせるところはなかった。90+2分には自陣でのパスカットからそのまま最前線までランニングし、ペナルティエリア内で際どいシュートを浴びせている。
試合後には安どの表情を浮かべた。
「長い間、試合に出られずに悔しかったですし、みんなが戦っているのに自分が助けになれないのはすごく悲しいことでもありました。今日については、みんなが勝ちにこだわって、勝つこともできて、それが自分の復帰戦だったので、すごくうれしいです」
文字どおりチームを前進させた序盤戦
加入2年目の今季は開幕節からスタメンに名を連ね、ダブルボランチの一角を担ってきた。適切なポジション取りでパスワークの中継点となり、推進力の高いドリブルで攻撃を前進させていく。
チームが大切にするフリーランニングにも献身的だ。オフ・ザ・ボールの局面でも必要な動きを実践し、相手ゴール前で決定力を発揮する。フィニッシュは力強くて正確だ。
ストロングヘッダーの印象は薄いかもしれないが、実はヘディングも強い。その裏づけとなるのが、的確なポジショニングだ。ゴール前の密集したエリアにもスペースを見つけ出し、ラストパスをフィニッシュへつなげている。
ディフェンスの局面では最終ラインをサポートし、デュエルで高い勝率をはじき出していった。ダブルボランチのコンビを組むことの多い小島幹敏とは、すでに昨季から役割分担が明確である。守備でも攻撃でもチームにプラスをもたらす存在として、背番号30は序盤の快進撃を支えた。
第4節のレノファ山口戦では、1対1で迎えた79分に決勝ゴールをマークした。自身のシーズン初ゴールは左CKからのセカンドボールの行方を見極め、ペナルティエリア内で右足を振り抜いたものだった。
しかし、第6節の水戸ホーリーホック戦で後半途中に退くと、そのまま戦線離脱となる。右大腿二頭筋肉離れを発症したのだった。
治療期間に得た貴重な経験
治療とリハビリは、当初の想定よりも長期間に及んだ印象だ。その間には、アメリカ・ロサンゼルスの『レッドブル・アスリート・パフォーマンス・センター(Red Bull APC)』を訪れた。メディカルチェックからトレーニング、栄養アドバイスなども受けられる、レッドブルグループのリハビリ施設である。
APCではドイツ・ブンデスリーガのRBライプツィヒの選手と、交流を持つことができたという。こうした施設を利用できるのも、そこで他チームや他スポーツの選手と出会えることも、レッドブルのグローバルネットワークならではのスケールだろう。
「現地には2週間ほど滞在しました。リハビリ期間が長かったので、そういう施設を使える機会をもらえたのは、とてもありがたかったですね。施設はもちろんですが雰囲気も素晴らしくて、自分のコンディションにしっかりと向き合うことができました。頭のリフレッシュにもなりました。ロサンゼルスのきれいな街並みに触れることもできて、コンディションを取り戻すためのすごくいい時間を過ごすことができました」
さあ、ここから。支えてくれた人の想いを胸に
J2リーグは残り12試合となった。J1自動昇格の2位以内をめぐる争いも、J1昇格プレーオフに出場できる6位以内をかけたバトルも、熾烈を極めている。1試合の重みが、ここからさらに増していく。
「自分が戻ることでチームがさらに良くなっていくようにと、自分自身でも期待しています。今季は開幕から4連勝して、そのあと勝利から遠ざかった時期もありましたが、良いときもあれば難しいときもあります。波はあるものです。自分がやることをしっかりやって、チームの勝利に貢献できたらと思います」
ファン・サポーターへの思いを聞くと、言葉が熱を帯びる。
「自分が一番苦しいときに、SNSでも練習場でも、『早く復帰できますように』とか『リハビリ、頑張って』といったメッセージを、ホントにたくさんもらいました。ファン・サポーターのみなさんが自分の近くにいることを、感じることができました。スタジアムに来てくれたファン・サポーターに喜んで帰ってもらえるように、チームの勝利に貢献する。それこそが、自分がやっていくべきことです」
8月23日の熊本戦は、小島が累積警告でピッチに立てない。その熊本戦に限らず、ここから先は総力戦の色合いが強まっていく。全員の力で、勝利を手繰り寄せなければならない。
それだけに、アルトゥールの復帰は“補強”にも似た意味合いを持つ。背番号30がピッチ上で躍動することで、大宮は目標へ近づいていくに違いない。
戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。