【ロングインタビュー】村上陽介「つねに“今がすべて”。限られたプロ生活で腐っている暇なんか1秒もない」

今回は、プロ2年目のシーズンを戦う村上陽介選手のロングインタビューをお届け。昨季、今季と自身を取り巻く状況が大きく変わる中で、なぜブレない信念を持ち続けることができるのか。オフィシャルライターの戸塚啓さんが、その確固たるマインドの神髄と背景に迫りました。

聞き手=戸塚 啓


昨季の貢献は過去の実績に過ぎない

――プロ2年目の今季は、同じポジションにカブリエウが加入し、新たな競争からスタートしました。
「外国人のCBは守備力が高い、スピードがある、ヘディングが強いといったイメージを抱いていましたが、ガブリエウは攻守両面においてすべてにレベルが高い。彼の人間性も含めて、ものすごくリスペクトしています。でも僕自身は、ほかの選手と自分を比較するのが、あまり好きじゃないんですよね」

――なるほど。
「競争が激しくても、監督にコイツしかいない、コイツを使うしかない、と思わせるぐらいじゃないとダメだと思うんです」

――昨季のJ3では全38試合のち35試合に出場し、プレータイムはフィールドプレーヤーで5番目に多いものでした。J3優勝とJ2復帰に貢献できた、という自負はあったと思います。
「去年試合に多く出たから今年も出られるだろう、という考えはなかったです。それは余計なプライドというか、過去の実績に過ぎないので。もうホントに今が、今の戦いが重要なので」

――余計なプライドは持たないけれど、去年の実績が自信になっているところはありましたか?
「J3優勝という結果から得た自信は、確かにすごくあります」

――その自信を胸に秘めて臨んだ今季は、開幕節でメンバー入りしましたが、その後はメンバー外が続きました。
「試合に出られないときも、やることは変わらないというか、自分の決めたことをやるし、うまくなるためにもやるしかない。限られたプロ生活で、腐っている暇なんか1秒もない。やるべきことはしっかり積み上げてきたつもりではあります」

――プロならそうあるべきだと思います。ただ、そのとおりに日々を過ごすのは、決して簡単ではないのでは?
「自分自身に常に矢印を向けて、誰かのせいにしないといったことは、ユースや大学で指導者の方から教わってきたことです。そうやって今のマインドがあります。もちろん、試合に出られないことへの悔しさとか葛藤は、死ぬほどありました。気持ちを整理できない日もあります。でも、やるべきことをやり続けるというのは、常に頭の中に置いていました」

――自分がやるべきことを、ひたむきに、ひたすらに、やり続ける、と。
「去年のシーズンなら、(濱田)水輝くんは試合に出たら、必ず勝点を取ってきた。今年なら(浦上)仁騎くんは、サブの練習試合でもいつも、しっかり声を出してやっていた。だから移籍した札幌で、守備の中心としてやれているんだと思う。そういう選手を見てきたので、結局はやり続けることが大事なんだな、と」

明治大で当たり前になった、“チームのために”

――そのメンタリティは、どうやって培われたのでしょうか?
「僕は東京の街クラブから大宮のユースに入ったんですけど、身体能力で入れたというか、もう一番下からのスタートだったんです。それで……」

――村上選手は2019年にU-17W杯に出場していますが、その選手が一番下からのスタートだったのですか?
「街クラブの中学生で180cmを超えているCBということで、多少は目立っていたかもしれないですけど、キックが人より飛ぶな、ヘディングが人より強いな、というぐらいで。信じてもらえないかもしれないですけど、高校2年の10月まで、ユースで試合に出ていないんです。初めてU-17日本代表に呼ばれたのが高校3年の6月で、10月開幕のU-17W杯のメンバーに入ったんです。アカデミーのスタッフの丹野さん(丹野友輔U18監督)や中谷さん(中谷優介U15監督)らが、ホントに根気強く指導をしてくれて、なんとか試合に出られるようになって、U-17日本代表に選ばれるような選手になったんです」


――ユースから進学した明治大学でも、濃密な時間を過ごしたと聞いています。

「試合に出る、出ないに影響されることなく、全員がチームのために一生懸命にやるのが明治のスタイルです。出られなくてもチームのために全力でやって、その結果として自分に何かがついてくればいい、というような考え方で。自分の中でも、それが当たり前になりました」

――明治出身でJリーグで活躍している選手も多いですね。
「当時の監督だった栗田(大輔)さんは、サッカー部はプロ選手の養成所じゃなくて人間形成の場だ、と言っていて、練習も日常生活もものすごく厳しかった。だからこそ、J1のどのチームを見ても明治出身の選手がいる、みたいな状況があるんだと思います」

新しい選手が加わっても、100%でやり続けるだけ

――さて、今季の初出場は4月13日の第9節・ブラウブリッツ秋田戦で、この試合でJ初ゴールをマークしました。しかし、翌節以降はメンバー入りするも出場はありませんでした。次に出場したのは5月31日のジュビロ磐田戦で、2-1とリードしていた84分に投入されました。しかし、アディショナルタイムに同点とされてしまいました。
「逃げ切るために使われたのは、自分でもわかっています。シチュエーションとしてはかなり難しかったですが、その仕事ができなかったのは事実です」

――翌節の愛媛FC戦はスタメンで起用され、その次のV・ファーレン長崎戦はガブリエウ選手に代わって40分から出場しました。3-2とリードしていた80分、フアンマ・デルガド選手に決められて同点に追いつかれてしまいました。
「自分がフアンマについていて決められてしまって、そこからなかなか試合に出られなくなってしまって。ただ、自分の実力でスタメンをつかみ取るのはもちろんですけど、長いシーズンでは累積警告だったりケガだったり、いろいろなことが起こる。そこで何ができるかだと思っていたので、チャンスが来たときに結果につなげるということを、ずっと考えていました」

――6月にはCBのイヨハ理ヘンリー選手が加入してきました。
「誰かが入ってきたから出られなくなったとか、誰かがいなくなったから出られるとか、そういう考え方だと自分にフォーカスできていないことになる。なので、ヘンリー選手が入ってきたことで、気持ちが揺れ動くようなことはなかったです」

――自分に対する信頼が薄れているのかもしれない、といった思いに駆られることはなかった?
「ないですね。そういう思いがよぎったとしても、僕ら選手は何かを変えられる立場ではない。できることをやるしかないので」

――思考はブレないですね。
「もちろん、いろいろな葛藤はありますよ。でも、練習から100%でやって、試合に出たらそれをすべて出す、出し続ける、ということしか考えていなかったです」

“運命”を感じた二度目の長崎戦

――9月13日の長崎戦を、そうやって迎えたのですね。ほぼ3カ月ぶりの出場で、スタメンに名を連ねました。
「積み上げてきたものは、発揮できたと思います。ファーストプレーがバチッと決まって、『これで今日はイケるな』という感じになれた。前回の長崎戦から3カ月くらいの時を経て、ここでもう一回出番が来たことに運命的なものを感じましたし、ここでやらなきゃ男じゃない、やり返さないといけない、と思いました。このチャンスをつかまなかったら、今季はもう次のチャンスはない、というぐらいの気持ちでした」

――試合後には自身のプレーを評価しつつも、1-2という結果に対する責任を口にしました。
「ホームでの上位対決でしたから、勝点3の重みをもちろん感じていて、だからこそチームを勝たせることができなかった、という悔しさが残りました。アディショナルタイムのヘディングシュートを決め切れなかったところも含めて、サッカーの神様に『まだまだ、できるだろう』と言われたような気がします」

――続くFC今治戦もホームゲームで、長崎戦に続いて強力なブラジル人FWとマッチアップをしました。
「自分自身は手ごたえを感じながらも、チームは勝つことができなかった。そこに対しての葛藤がすごくあったので、そのあとの磐田戦とベガルタ仙台戦で勝利できたのは、ものすごくうれしいです。長崎戦から4試合連続でスタメンで使ってもらって、自分のプレーも去年のシーズンより幅が広がっているなと感じることができています」

――J3とJ2では、外国人選手のクオリティが違うのでは? 長崎のマテウス・ジェズスや今治のマルクス・ヴィニシウスは、J1でも違いを生み出せるレベルだと言われています。
「全然違いますね。試合後の疲労感が違います。体はもちろん、頭も疲れているな、と感じます。でも、なんて言うか、成長につながる疲労感というか」

目の前の試合に全力で臨むだけ

――シーズン終盤になり、1試合も落とせない試合が続いていきます。
「チームの誰かが『幸せなヒリヒリ感だ』って言っていましたけど、まさにそうだなと思っていて。J1昇格争いを勝ち抜くんだっていうヒリヒリ感は、選手としての幸せを感じることができるものです」

――J2残留を争うヒリヒリ感とは、まったく種類が違うものですね。
「僕は23年の残留争いは経験していないので、そこの違いはハッキリとはわからないんですけど、23年と今年を知っている選手はみんなそう言いますね」

――NACK5スタジアム大宮の空気感も、昨季とは違います。
「それ、めっちゃわかります。長崎戦でひさしぶりにピッチに立ったときに、スタジアム全体のボルテージの上がり方とか、自分がいいプレーをしたときの盛り上がりとかが、去年より一段と大きくなっているって感じました。僕自身はひさしぶりの出場ということで、ファン・サポーターのみなさんが気持ちを込めてコールしてくれていることが、ものすごく伝わってきました。だからこそ、いいプレーができたんじゃないかと思って。ファン・サポーターのみなさんに、ホントに感謝しています」

――最終盤の戦いに挑むメンタリティとして、村上選手もほかの選手も、「1試合、1試合」と話しています。
「僕自身はプロ2年目で、J2で戦うのは初めてで、だからこそいい意味でフレッシュにできているところがあります。1試合ずつということについては、先を見てもしょうがない、先のことを考えてもしょうがないので、映像も次の対戦相手しか観ません。もうホントに、目の前の試合に集中していくだけです」

――言葉から充実感がにじんできます。ヒリヒリするような緊張感を、いい意味で楽しむことができていますね。
「長崎戦をあとから振り返ると、最後は押せ押せで、これで自分が得点したら最高だっただろうなとか、勝っている展開で最後の最後に自分がシュートブロックしたら最高だっただろうなとか、いろいろな想像が駆け巡りました。去年も厳しい試合を競り勝っていく充実感がありましたけど、それとはまた種類が違いますね。試合に出ると生きている感じがするというか、磐田戦、仙台戦と試合に出て勝つのはホントに最高だな、とあらためて感じています」

――市原吏音選手がU-20W杯出場のために、今治戦からチームを離れていました。「彼がいないから負けた」とは、絶対に言わせたくなかったでしょうし。
「それはもうメチャクチャありました。自分が出て負けたと言われたら、死ぬほど悔しいですし。長崎戦と今治戦は結果が出なかったので、磐田戦から結果で見返すしかないと思っていました」

攻撃への関わりはレベルアップできている

――9月24日に監督が代わりました。チームの変化については?
「闘志を出して戦う、ハードワークして球際で戦う、という根本的な部分は変わっていないと思います。僕自身はプロ2年目でシーズン中の監督交代は初めてなので、心が追いつく前に物事が動いていく感じが強かった。すぐに試合もやってきたので、何かを考える間もなかったというか。今もまだ、怒とうの日々にいるような感覚です」

――最終ラインの枚数が変わりました。新監督就任とともに、4バックで戦っています。
「新しいことに挑戦できるのはいいことで、個人的にはいつも前向きに取り組んでいます。3枚と4枚で違いがあると言っても、監督によって考え方がありますし、どっちがやりやすいとかやりにくい、というのはないですね」

――宮沢監督の4バックで、意識していることは?
「コーチングや後ろからのリスク管理を、宮さんにすごく細かく求められています。まずそこを意識しています」

――3バック時に比べると攻め上がるシーンは少ないですが、前線へ刺し込むパスが効果的です。
「(オリオラ・)サンデーやファビアン(・ゴンザレス)の動き出しに合わせて、背後へ落とすボールはかなり意識してやっています。攻撃への関わりは今かなりレベルアップできているな、と感じているところで。今季からミツさん(戸田光洋コーチ)が来てくれて、すごくいいアプローチをしてくださった。見えるところが増えている感覚があります」

自分を信じていれば強烈な選手になれる

――試合前のルーティーンがあれば教えてください。
「試合前に必要なことをノートに書き出して、あらためて確認するという作業をします。今自分が何を思っていて、試合に向かうための心持ちと、プレーで意識することを書きます。前の試合を受けて、監督から『これは良かったけど、これはもっと良くなるんじゃないか』と言われたら、その『もっと良くするべきこと』をしっかり意識するために書く。クロスから失点をしたら、同じようにやられないためにもクロス対応を意識すると書く。もちろん練習で改善しますが、書くことで頭に残すようにしています」

――それは試合前日ですか、それとも当日ですか?
「そこはカチっと決めていません。でも、試合当日が多いです」

――ここから、J1昇格を手繰り寄せるために必要なことは?
「気持ち、勝ちたい気持ちだと思います。目の前の敵に負けない。とくにNACK5スタジアム大宮では、あれだけの後押しがあるので」

――メインスタンドから見て左側のゴールへ攻めると、得点の予感が高まります。
「それはプロになって僕も感じています。どっちのゴールへ攻めるとしても、スタンドからの後押しがあるのは変わらないんですけど、あちら側のゴールへ攻めていくときはさらに強い勢いがある、という感じがします」

――村上選手のゴールを期待するファン・サポーターも多いです。
「取りたいですね。NACK5スタジアム大宮では、まだ取ったことがないので」

――アカデミー出身の一人として、このチームをJ1へ戻したいという気持ちが強いのでは?
「自分がアカデミーのときは、18年、19年とJ1参入プレーオフを戦って、スタジアムで試合を観ました。当時はこの世界へ来られるとは思ってもいなくて、いつかあのピッチに立てたらなあ、ぐらいの気持ちでした。それが今、自分の手でつかみ取れるところにいる。昇格の立役者になれたら、もう最高ですね。でも、欲張っていいプレーを見せようとかは考えません。個人的な野心はありますけど、まずはやっぱりチームのために戦う、というのが一番です」

――U-17日本代表時代のチームメートの中には、日本代表に選ばれたり、海外でプレーしたりしている選手も増えていますからね。
「10月の試合の日本代表だと、鈴木彩艶と藤田譲瑠チマが一緒にやっていた選手ですね。この夏からベルギーでプレーしている(畑)大雅は、僕と同じ東京の街クラブ出身で、中学のときは何度も対戦しました」

――多くの刺激を受けているのでしょうね。
「そうですね、僕自身ももちろん将来的に海外でプレーしたいと思っていますけど、そのためにはJリーグで強烈なインパクトを残すぐらいの選手にならないと。自分を信じていけばそういう選手になれるだろうし、それだけの環境が今のクラブには整っています。日々進化を続けて、強烈な選手になりたいです」

――チームの勝利につながる活躍を期待しています。
「それがすべてです。自分はうまい選手じゃないので、チームのために泥臭く戦います」


戸塚 啓(とつか けい)
1991年から1998年までサッカー専門誌の編集部に所属し、同年途中よりフリーライターとして活動。2002年から大宮アルディージャのオフィシャルライターを務める。取材規制のあった2011年の北朝鮮戦などを除き、1990年4月から日本代表の国際Aマッチの取材を続けている。

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