【新加入選手紹介コラム】スファナット・ムエアンタ。さまざまな記録を塗り替えた“タイの至宝”

驚きを持って伝えられた、タイ代表スファナット・ムエアンタの大宮移籍。彼はどんな足跡を辿ってきたのか。そして、今回の移籍がタイではどう報じられているのか。タイのサッカー事情に精通している、ライターの本多辰成氏に寄稿していただいた。



タイにルーツを持つRBグループの一員に

タイ代表のスター選手であるスファナット・ムエアンタの完全移籍での加入が決まって以降、RB大宮アルディージャの公式SNSは多くのタイ人ファンからのコメントであふれている。クラブの公式Facebookでアップされているスファナット関連の投稿は大きな反響を得ており、中には5万以上の『いいね!』を獲得しているものもある。数百件ものコメントが寄せられている投稿も珍しくなく、その多くがタイ人ファンによるタイ語でのメッセージだ。

タイの至宝と呼ばれる23歳アタッカーのJリーグ移籍のニュースは、タイの現地メディアでは噂の段階から大きく報じられていた。契約内容に関する情報や、「スファナットの元にはベルギーやアメリカなどのクラブからもオファーがあった中で大宮への移籍を決断」といった移籍の背景を伝えているメディアもある。もともとタイでは自国選手のJリーグ挑戦には高い関心が寄せられるが、タイメディアの情報から大宮側の熱意を感じ取るファンが多いようで、とりわけ好意的に受け止められている。

スファナットは近年のタイを代表する逸材だ。その才能は若くして芽を出し、15歳でタイリーグの強豪ブリーラム・ユナイテッドの育成組織からトップチームに昇格。2018年にタイリーグ史上最年少(15歳8カ月22日)でデビューを果たすと、その翌月にはリーグ最年少得点記録も更新(15歳9カ月25日)して神童と呼ばれた。スピードと天性の得点感覚を武器に10代からアジアの舞台でも存在感を見せ、AFCチャンピオンズリーグ(16歳8カ月7日)、AFC U-23アジア選手権(17歳5カ月6日)でも大会最年少ゴールを記録。2019年には16歳10カ月3日でA代表デビューを飾り、タイ代表史上最年少出場記録を更新した。現在は北海道コンサドーレ札幌でプレーする兄のスパチョーク・サラチャートらとともにタイ代表の攻撃の中心を担ってきた。

スファナットのJリーグ移籍は、タイ人にとっては単なる海外移籍というだけではない意味も含まれている。移籍先の大宮がレッドブルグループの一員であるからだ。日本ではあまり広く知られていないと思われるが、レッドブルのルーツはタイにある。1970年代にタイ人実業家チュリアオ・ユーウィッタヤー氏が開発したエナジードリンク『クラティンデーン』が原型となり、その後、オーストリア人実業家ディートリッヒ・マテシッツ氏との共同事業によって現在のレッドブルへと発展した。そのため、スファナットの大宮加入には「自国の至宝が自国にルーツを持つレッドブルの一員となって世界に羽ばたく」という特別なロマンも込められているのだ。



細貝萌も絶賛したポテンシャル

スファナットはこれまで、タイリーグやタイ代表において複数の日本人指導者や日本人選手とともに戦った経験を持つ。2019年から約2年間、タイのA代表とU-23代表を指揮した西野朗監督の下では常に招集され、17歳ながら飛び級で出場した2020年のAFC U-23選手権ではタイ史上初となるベスト8進出に貢献。ブリーラム・ユナイテッド、そしてタイ代表でも指導を受けた石井正忠監督には不可欠な存在として重用された。石井監督の下で時代にアカデミー時代の主なポジションであったセンターフォワードから右ウイングへと主戦場を移し、2022-23シーズンには公式戦13ゴール11アシストの活躍でブリーラム・ユナイテッドの2シーズン連続国内3冠という偉業達成の原動力となった。


西野朗監督(右端)の下で戦った2020年のAFC U-23選手権。スファナットは下列左から6人目

2019年には、柏レイソルからブリーラム・ユナイテッドに移籍した元日本代表MF細貝萌(現・ザスパ群馬社長)ともチームメートとして戦っている。タイリーグでの新たな挑戦をスタートしたころの細貝にタイで印象的な選手を尋ねると、真っ先に名前を挙げたのが当時まだ16歳のスファナットだった。「16歳とは思えない高い能力を持っています。自分が16歳のときを考えたら信じられないレベルです。彼がこれからどういう選択をするのかわかりませんけど、能力的には間違いなくJ1でもできると思いますし、欧州も狙える選手だと思います」と絶賛。西野、石井両監督も含めて日本のトップレベルをよく知る彼らが当時から高く評価していたことは、そのポテンシャルを証明しているだろう。

スファナットは2023年にベルギー1部のOHルーヴェンへ期限付き移籍し、約1年2カ月間在籍した。加入直後の筋肉系の負傷に始まり細かなケガが重なってコンディションの維持に苦労したものの、公式戦17試合に出場して1ゴールを記録。唯一の得点はタイ人選手としてヨーロッパ1部リーグにおける初ゴールとなった。初の海外挑戦はスファナットにとって世界のレベルを痛感する時間ともなったが、タイメディアによるインタビューでは「ヨーロッパでの経験を通じてもっと向上したいというモチベーションが生まれた。つねに新しい挑戦が必要だと思う」と語っており、今後につながる貴重な時間だったようだ。OHルーヴェン退団後は古巣のブリーラム・ユナイテッドに戻り、直近の2シーズンは再び攻撃の中心として活躍していた。

大宮の公式SNSに寄せられているタイ人ファンのコメントを見ると「スファナットを見に日本へ行く」という声が数多くあり、「ユニフォームがかっこいい、どこで買えるの?」といったグッズ関連の内容も目立つ。スファナットにとって2度目の海外となるJリーグでの挑戦が成功すれば、大宮にとってもさまざまな面で効果が生まれていくはずだ。





本多 辰成(ほんだ たつなり)
静岡県浜松市出身。出版社への勤務を経て2011年に独立し、2017年までの6年間はタイ・バンコクを拠点に東南アジアのサッカーを取材。その後、日本に拠点を移してライター・編集者として活動している。

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