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【9月17日 トレーニングレポート】毎日ゆっくりと、でも着実に歩みを続ける安光将作が、苦しんだ先に見たい景色とは

安光将作は、今日も、走った。

「富山のプロ1年目、試合になかなか絡めなかったんです。それで、トレーナーさんに言われて始めました」チームメートと同じことをやっているだけでは、試合に絡めない状況を変えることはできない。全体練習後に、ひとりで走るようになった。雨がしとしとと降る日も、強風が吹きつける日も、富山なので雪に見舞われる日も、休むことなく走り続けた。



「大学では90分間走りきれないような選手だったこともあって、やってみたんです。2年目から試合に出るようになったときに、それまでより走れるようになっていたんですよね。富山でも大宮でも、試合に出ている選手のなかでは、走行距離とかはわりと上位だと思うので、効果はあったのかなって」

プロ4年目の現在は、豊富な運動量が強みのひとつとなっている。SBでもウイングバックでも、攻守にアグレッシブにかかわっていく。人知れず続けてきた地道なルーティーンが出場試合数や得点といったデータに反映されていき、プロとしての歩みを逞しくした。

「1年目はSBって感じではなかったんですけど、いまのSBは運動量が絶対に必要じゃないですか。だから、あのときに始めておいて良かったですね」



89日の千葉戦を最後に、ピッチに立っていない。第27節の熊本戦、前節の長崎戦でメンバー入りしたが、出場機会は得られなかった。ここまでリーグ戦の出場は6試合で、プレータイムは162分である。「いろいろな思いはあります」と言う。「いろいろな」中から、特に強いものをあげてもらう。

「やっぱり、悔しさと苦しさじゃないですかね」

日々の練習でやるべきことをやり、個人練習にも熱心に励んでいる。それでも、試合出場が叶わない。負の感情に襲われてもおかしくないが、安光の思考と行動はつねに前向きだ。



「プロサッカー選手って、積み上げが評価される職業ではないと思うから。結局のところ、試合で何ができるのか。練習で周りを納得させられるようなプレーができるかどうかだと思うので。育成年代だったら頑張っていることが評価されるのかもしれないけれど、プロはそれが評価されないのは当たり前だと思っています。そこは関係なくて、自分の力が足りてないから(試合に)出られない、ならやるしかないよね、っていう」

絶えず自分に矢印を向けているから、試合に絡めない理由を自分以外のところに探したりしない。誰かを責めることもしない。

「意外と客観的に自分を見られるというか。ここが足りない、ここが劣っているから出られない、とか。大学のときもそうだし、プロ1年目もそうだし、自分が出られないときに、『何で俺が出られないんだ』っていう感覚にはなったことがないですね。そこは感情論じゃなくて。試合に出られないからといって不貞腐れても、何のプラスにもならないですし」



でも、と言葉をつなぐ。自分を客観視し、冷静に自己分析できるがゆえに、こんな感情に駆られることもある。「サッカー選手に、あまり向いていない気もするんです。なんで俺が出られないんだって思っているぐらいの選手が、この世界は多いというか。メラメラ、ギラギラを隠さない選手はいるし、そういう人って何かのきっかけでバーンといったりするじゃないですか。だから、どっちがいいのかはわからないですけど。自分はそういうタイプじゃないんです」

チームは札幌戦、長崎戦を連続で落とした。いずれも自分たちの時間帯を作り、決定機を迎えながら、1点差で競り負けた。「チームの状況は、特に変わっていないし、もしかしたら自分に余裕がなくて、いまチームがこうなっているとか、誰かがちょっと元気がないなとか、そういうことに気づく余裕はないのかな。自分のことで精いっぱいで」



そう言いつつも、安光は言葉をつないでいく。「自分のことで精いっぱい」なのだとしても、彼はピッチの内外で目を配り、チームメートに声掛けをしている。「諦めている人とか、投げ出す人はいない。それはゲームに出る、出ないにかかわらずで、投げ出す人がいないというのは、すごいなって。それは(長澤)徹さんが導いてくれていると思うし、目標やビジョンを掲げてくれているから、そこを信じてみんながやれているのかなと思います」

次節の今治戦は、2試合連続のホームゲームだ。ホームのNACK5スタジアム大宮のピッチでは、ここまで3試合に出場してきた。「やっぱり、いいっすよねえ」との言葉に、喜びや興奮がたっぷりと含まれている。

「アウェイで来たときは、ゴール裏がすごいなと思ったんです。これは圧があるなって。ホームの選手として戦うと、ホントにいいなって思う。8月の千葉戦はホームゲームでベンチ入りするのもひさしぶりだったので、『ああっ、早くピッチに立ちたいな』と思いながら試合を観てました」



今治戦を3日後に控えた17日の練習では、3対3や11対11のゲーム形式のメニューに加え、両サイドのクロスからフィニッシュへ持ち込む形にも時間が割かれた。全体練習後が終わると、選手たちは個別に練習をする。安光は左サイドからのクロスを繰り返し確認し、さらに居残りでボールを蹴った。

9月中旬とは思えない強い日差しが降り注ぐなかで、最後までピッチにいたのは安光だった。

練習着を着替えて裸足になり、帽子を被る。ランニングのスタートだ。全体練習終了から、ほぼ1時間が過ぎている。ランニングの時間は10分か20分で、その日の体調などを考えて柔軟に決めていく。ペースは1キロ530秒から、630秒の間で調整をする。

「今日は10分走って、10分歩きました。試合まで練習が4日間なら、そのうち2日間は20分走りたいんですけど、必ずそうするってことでもなくて。2日連続のオフ明けで、体重がちょっと増えていたら、20分走ったりします」



安光は、明日も、走る。ひとりで、ゆっくりと、黙々と。そうやって今日を、明日へつなげる。
ピッチを後にするのは、たぶん明日も、安光が最後だ。



(文:戸塚 啓/写真:高須 力、早草 紀子)

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