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東京五輪の金メダリストが、西大宮のクラブハウスにやって来た。
プリモシュ・ログリッチ。スロベニア出身の36歳は、スキージュニア世界選手権で団体優勝を果たすなど、スキージャンプ選手として活躍した後、21歳のときに自転車競技(ロードレース)に転身。瞬く間に世界トップレベルのレーサーとなり、これまでに数多くの栄冠を獲得してきた。
「グランツール」と呼ばれる三大大会では、プエルタ・ア・エスパーニャで大会最多となる総合優勝4回、ジロ・デ・イタリアで総合優勝1回、ツール・ド・フランスではステージ優勝3回。そして、2021年の東京五輪男子個人タイムトライアルで見事金メダルに輝き、世界一の選手となった。
ドイツのロードレースチーム「レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ」に所属するログリッチは、11月9日の「2025ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」に出場するために来日した。その直前、同じレッドブルグループのRB大宮アルディージャを訪れて、選手たちを前にスチュアート・ウェーバー ヘッドオブスポーツとの対談を行なった。
約30分のトークセッションでは、現在のチーム状況にも重なる追いかける立場の人間に必要な思考、トップアスリートとしての心構え、モチベーションを維持する方法、トレーニング・食事・休息の重要性、周囲の雑音を気にせず集中するコツ、プレッシャーとの向き合い方などに関して言葉がかわされた。
「24時間、レースのために過ごしている」
「栄養、食事のことを考えすぎるのも良くない」
「明確な目標を設定して、学んで成長することに集中すれば雑音は気にならない」
そんなログリッチの答えに選手たちが頷き、時折り笑いも起きる和やかな雰囲気のなか対談は進んだ。同じプロアスリートとして共感する部分が多かったのだろう。
会場が最も沸いたのは、「レッドブルファミリーの一員として勇敢であるために意識していること」についての会話の場面。
ログリッチの「何かに向き合うとき、怖れるのではなく受け入れることが大事だと思う。自分自身は、何をしてきたか、毎日何をしているのかを理解している。だから、自分がやってきたことに自信を持って過ごしている。シュートを打たなくては点が入らないのと同じ」という答えに対して、ウェーバーが「秋田戦での村上(陽介)と同じ」と答えたときだ。
直後、木村大樹通訳が「実はあの瞬間、ウェーバーは『打つな!』と叫んでいた」と裏話を明かすと、会場は大きな笑いに包まれていた。
選手からの質問を受けつける時間も設けられて、メンタル面のトレーニング方法、うまくいかなかったときの立ち直り方、金メダルを獲るのに一番大切なことについて、ログリッチが答えてくれた。
「置かれている状況を受け入れて、起こったことに対してできること、できないことを明確にできれば、メンタルも成長できる」
「一旦落ち込むことも大事かもしれない。それは、自分がやってきたことを大事に思っている表われだと思うから。そして、負けたり、うまくいかなかったりした試合を振り返ると、必ず学びがある」
「難しい質問……運も必要かな(笑)。あとは、目標を設定してアプローチすることが大事だと思う」
そうした答えは、大宮の選手たちに何らかのヒントを与えたはずだ。
対談を聞いた直後、ログリッチと年齢が近い富山は、以下のような感想を教えてくれた。
「ツール・ド・フランスさいたまがあるのは知っていました。年齢は向こうが一つ上ですね。やっぱり、トップアスリートとして休息も大事、トレーニングも大事というところや、メンタルに関してもいい話があったので、すごくリンクしていると思いました。金メダルを獲得した選手の話を聞けた今回の機会は、僕にとっても、若い選手にとっても刺激になったはずです」
「日々やり続けることの大切さは、これまでにも意識してきたことですが、金メダルを取っている選手、世界大会で優勝している人の口から聞くと、より説得力がある。個人に注目が集まる自転車競技なのに、サポートしてくれるスタッフを含めてチームが大事だという話も、すごくよかったです。世界で活躍する他競技のトップアスリート、しかも金メダルを獲った選手の話を聞ける機会は、自分で足を運ばない限りない。そんなところもレッドブルならではの良さで、すごいところだと思います」
レッドブルだから実現した、世界トップレベルで活躍するロードレーサーのログリッチを招いてのトークセッション。刺激を受けた選手たちが2日後に、首位の水戸を相手に快勝することができたのは、ログリッチとの時間で何かのきっかけや気づきがあったからかもしれない。
(文:粕川 哲男)
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