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【トレーニングレポート】藤井一志の進化を支える元ストライカーとテニスボール

藤井一志は、一歩一歩、確実に成長の階段を上がっている。

プロ2年目の今季、出だしは最高だった。山形との開幕戦で劇的な決勝ゴールを押し込むと、第2節・甲府戦でも2試合連続決勝点をマーク。第3節・熊本戦ではアウェイで2得点を叩き出し、3試合連続で計4得点。秋田の小松蓮(現・神戸)と並んで得点ランキングの首位に立ち、一躍ヒーローとなった。



ところが、5カ月以上ゴールから遠ざかっている。得点したのは第11節・札幌戦が最後だ。途中出場が多くなり、サイドアタッカーを任される試合も増えた。長澤徹前監督のラストゲームとなった第30節・今治戦では、シャドーで先発して2本のシュートを放ったが、ゴールは奪えなかった。

開幕当初の勢いは失われたかのように見える。しかし、一番近くで藤井の努力を見続けている戸田光洋コーチは、そうした見方を否定する。

「一志のプレー、一つひとつをよく見てください。最近、得点は取れていませんが、ボールロストはものすごく減っています。パスを確実に止められるようになってきたし、狭い局面でプレッシャーを受けてもボールを奪われなくなりました。細かい変化はしっかりと出てきているし、絶対に積み上がっています。あとはどう仕留められるか。そこだけです」

藤井自身の謙虚で前向きな姿勢は少しも変わっていない。3試合連続得点中だったシーズン序盤でさえ、「もっと決定率を上げなきゃいけない」と危機感を抱いていた。その一方で、自身もストライカーとして活躍した戸田コーチとのミーティングや居残り練習を通じて、成長も実感している。

「僕がミスしても、ミツさん(戸田コーチ)が『ストライカーは1点取ればいい』と言ってくれるんです。だからミスを引きずらず、どんどんチャレンジできるようになりました」

得点を取っているときも、そうでないときも、戸田コーチとのミーティングは欠かしていない。週1回のペースで試合を振り返り、成長のヒントを探しながら言葉をかわしている。「ミツさんは、課題を切り取って伝えてくれるだけでなく、良かったところを褒めてくれるので、それが自信につながっています」

藤井と戸田コーチは、9月中旬からテニスボールを使ったシュート練習を取り入れている。全体練習が終わって、自主練習組もグラウンドを引き上げていくなか、戸田コーチがテニスボールを投げて、藤井がボレーシュートを打つ。左から、右から、山なりのボールを何回も何回も、打ち続ける。



「あの練習で意識しているのは、体重をボールに乗せることです。僕はシュートを打つとき体重が後ろに残りやすいことにミツさんが気づいてくれて、そこを修整するためにやり始めました。テニスボールをパワーで持っていくんじゃなくて、しっかりとミートして体重を乗せることで、強いボールを前に飛ばす。その感覚を体に覚えさせているところです」

このテニスボールを使ったシュート練習は、戸田コーチが岡山時代に考案して豊川雄太と始めたものだ。その後、川崎でも宮代大聖(現・神戸)や山田新(現・セルティック)が同じトレーニングに励み、日本代表まで上り詰めた。

「僕が『こんなシュートを打ちたい』と言うと、ミツさんは見たこともない練習を教えてくれるんです。初めてやる練習は楽しいし、練習を通してうまくなっている感覚もあります」

今シーズンは残り6試合。水戸、徳島との直接対決もあり、希望の火は消えていない。戸田コーチとの努力の日々を結果に結びつけてJ1昇格を実現する。藤井は、それが自分の使命だと理解している。

「僕自身、成長できている実感はありますけど、恩返しするには結果を残さないと……。練習は、結果を残すためにやっているので。ミツさんは『続けていれば絶対取れる。俺には見える』と言ってくれるので、あとは自分がどう仕上げるか。責任を感じながら、残りの試合で結果に結びつけたいです」

磐田、仙台を相手に連勝し、3日間のオフを挟んだ108日、宮沢悠生新監督の下でのトレーニングは充実していた。球際の強さや攻守の切り替えなど、これまで同様に"勝負のキワ"を徹底しながら、そこにゲーム性も盛り込んだ練習は1時間強。ビルドアップを意識したパス&コントロール、数的優位を作ってフィニッシュに持ち込む32、フリーマンを入れた5対5などには、モチベーションを高める宮沢監督の檄だけでなく、選手たちの笑顔や仲間を鼓舞する声が溢れていた。

全体練習後、藤井はいつものように居残り練習に打ち込んだ。この日はテニスボールを使ったシュート練習はしなかったが、戸田コーチのサポートを受けながらゴールに向き合い、繰り返し足を振り、何度も何度もゴールネットにボールを突き刺していた。

藤井一志と戸田光洋コーチ。大宮でより一層の飛躍を期すストライカーと、自分が持つ知識のすべてを捧げる愛情に満ちた指導者。二人三脚の歩みは、これからも続いていく。


(文:粕川 哲男/写真:早草 紀子)

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