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【トレーニングレポート】自分の体と改めて向き合うと決意し、石川俊輝が取り組み始めたこととは

残り2試合への準備が、1113日からスタートした。

チームは3日間のオフ明けで、フィジカル的なメニューから始まり、スモールフィールドでのゲーム形式で締めくくった。ピッチには宮沢悠生監督と選手たちの声が響き、いつもどおり実戦さながらの強度による攻防が繰り広げられた。

チームの練習から離れて、リハビリに汗を流す選手もいる。長期離脱中のガブリエウ、笠原昂史らが、それぞれのメニューを消化していた。石川俊輝も7月5日のいわき戦で負傷交代してから、チームを離れている。



「ケガをした瞬間に、もう感覚で(大きなケガというのが)分かって。痛いのがひざの前のほうだったので、これもしかしたら前十字靭帯(のケガ)かもしれないなっていうのを感じたので」右ひざが発するシグナルは、明らかな異常を伝えていた。それなのに、石川は「申し訳ない」との思いを抱いたという。

「チームが勝てていない苦しい状況で、どうにかしたいと思っていましたし。チームが勝つために必要と思ってもらって、ピッチに立っていたので。責任を果たせなった気持ちのほうが……」

ピッチから担架で運び出された4日後、石川は手術を受けた。右膝前十字靭帯損傷、外側半月板損傷の診断を受けた。長期離脱が避けられない大ケガである。



治療とリハビリに費やす長い時間を、どうやって過ごしていくか。石川は自らに問いかけた。

「ケガを治すためだけのリハビリをして、戻りますってなったときに、その期間ずっと(ケガなく)練習をしていた自分と比べたら、それだと絶対に劣化しているなと思って。ステップとか強度の高いランニングができないとなったときに、もう一回自分の体と向き合ってみよう、と。それまで取り組んでこなかった上半身とか腕とかを、作り上げるというのをやってみようと思って」

石川はデュエルに強い。「競り合いは俊輝の大好物でしょう」と評する監督もいた。彼自身も「当たり負けする感覚はなかった」と話すが、「当たり負けしないじゃなくて、球際で奪い切る力を、体の部分から作ってみよう」と考えたのである。

「今、馬鹿みたいに筋トレしてます(笑)

上半身の逞しさは、厚めのトレーニングウェアを着ていてもはっきりと分かる。地道な積み重ねが、成果として現れてきている。



筋トレルームに長く居るようになって、気づいたことがある。フィジカルモンスターのラッソことファビアン・ゴンザレスや、筋トレに取り組んで出力を大きくしている泉柊椰のひたむきな努力を、目の当たりにした。

「ラッソは毎日黙々と筋トレをしている。あれだけの練習をして、そのあとに筋トレをする。僕は筋トレの時間よりできるだけグラウンドでボールに触っていたかったので、あまり見てこなかった部分を今この状況で知ることができた。復帰するころにはラッソに当たり負けしない、いや、当たり勝つくらいのイメージでやってやろうと。ラッソや柊椰だけじゃなく、いろいろな選手の向上心に、ホントに触発されています」

自らを奮い立たせてくれる仲間もいる。ひとりではない。たくさん、いる。

「グラウンドに来たらポジティブに、自然体でいる(長期離脱中の)選手を、これまで見てきたので。身近なところで言えば、俊介(菊地俊介、現サッカースクールコーチ)は湘南で一緒にやっていたときに前十字靭帯損傷のケガをして、復帰後に活躍を見せてくれた。愛媛でも同じケガをして、そのときも復帰して活躍をした。大宮で一緒だった矢島輝一とか中野誠也とかも、同じケガをしたことがあるので連絡をくれました。彼らも自分と同じケガから復帰して頑張っているのに、下向いていられないな、という気持ちは大きいですね」



ベテランと呼ばれる年齢になった。「どちらかと言うと、もう(キャリアの)ゴールのほうが近い」と自覚している。目前の1試合が「ラストチャンス」という覚悟でいるから、「もったいない時間を過ごしていられない」という思考になるのだ。

「終わったときにいろんな悔いが残るぐらいだったら、ホントにやるだけのことやって、納得するかしないかはそのときの自分次第ですけど、そういう終わりができるように。今のこのケガの時間が、残り(のキャリア)をどれだけ長くできるか、長く勝負できるかっていうのを試されているところなのかなって」

10月に入って、グラウンドでのジョギングを始めた。2日連続で走って、1日休んで、体の声を聞きながらスピードや量を調整している。下半身の筋トレも、リハビリに組み込まれてきた。こちらも、慎重に負荷を計算していく。



「担架で運ばれた試合が最後っていうのは、家族に申し訳ないなっていうのはあるんで。支えてくれる妻だったり、一番身近で応援してくれている子どもたちだったり、両親もそうですし、兄弟も、おじいちゃん、おばあちゃんもそうですけど、ホントにみんなが支えて、応援してくれているので」

このままでは終われない、という気持ちもある。フットボーラーとしての、父親としての誇りが、厳しいリハビリに取り組む意欲を立ち上がらせる。

「ホントに元気で戦っている姿っていうのを、父親としてもそうですし、ひとりの人間としてもそうですし、そういう状況になったとしても、立ち上がる姿勢っていうのは見せなきゃいけない。そういう姿勢が、誰かが自分と同じ状況になったときに、『あの人がやっていたからやろう』って気持ちになってくれたらいいですし』



プロキャリアで初めてと言っていい大ケガをしても、石川は挫けない。オフ・ザ・ピッチの静かなるプロフェッショリズムは、J1昇格への大一番に挑むチームの、確かな支えである。

残念ながらピッチで戦うことはできないが、彼の25年シーズンはまだ終わっていない。来シーズンへ向けて、誰よりも早く動き出している。


(文:戸塚 啓/写真:高須 力、早草 紀子)

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