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「ここからが楽しいところかな。だから楽しみ、ワクワクですね。そもそも、こういった経験ができること自体、サッカー人生でそう多くないと思うので」

リーグ戦は残り2試合。J1昇格の可能性はもちろん、他カードの結果次第でJ2優勝の望みもある最終局面だ。ホーム最終戦となる第37節で迎える相手は、アウェイでの前回対戦では完封負けを喫した徳島である。
宮沢悠生監督の就任から続いている無敗記録が止まるようなことがあれば、リーグ戦はより一層混沌とする。誰もが胸を熱くする状況の中、豊川雄太は少しも動じていない。それどころか冒頭の言葉通り、先の見えない現状を楽しんでいる。そこが、頼もしい。
考えてみれば豊川は、これまでに何度も大一番で貴重なゴールを決めてきた。最もよく知られている逸話は海外挑戦1年目、2017-18シーズンにKASオイペン(ベルギー)で奇跡の残留を実現したハットトリックだろう。
最下位で迎えた最終戦、57分に投入された豊川は3得点1アシストの大活躍で4-0の勝利に貢献した。残留を争うライバルの試合展開から3点のリードが必要な状況のなか、17分間で4得点に絡む離れ業。僅差の勝利でも降格という苦境を、たった一人で覆して、救世主となったのだ。
他にも、2016年のAFC U-23選手権準々決勝ではイラン相手に途中出場で決勝ゴールを奪い、U-23日本代表を準決勝へ導いた。また京都に在籍した2022年には、負ければJ2降格となるJ1参入プレーオフ(当時はJ1の16位と勝ち上がったJ2の上位が対戦)の熊本戦で先制点を奪い、J1残留に貢献している。
その勝負強さは、どこからくるのか。
「ここぞっていう試合が好きですね、昔から。そういった大事な試合には、自分が培った自信を持って臨んでいます。今回も、ゴールを昇格に結びつけられるように、そこだけは強い信念を持って臨めたらと思っています」
今季大宮に加入して、ここまで35試合出場7得点。国立競技場で行なわれた第14節・千葉戦でのデザインされた先制点、第18節・磐田戦で右足を強振したスーパーボレー、第33節・藤枝戦での決勝点など、記憶に刻まれているゴールも多い。
それらはすべて、コツコツと積み重ねてきた日々のトレーニングの賜物である。西大宮の練習グラウンドで幾種類ものシュート練習に取り組む豊川の姿を、繰り返し見てきた。1本のシュートに懸ける思いは強く、身体のケアにも気を配っている。
ストライカーとしての技術やコンディションをハイレベルに保つ独自のトレーニングに加え、メンタルを安定させる秘訣もある。
「自分を知ることが大事というか、そこは意識しています。リーダーシップを取る人とかいろんなタイプがいますけど、自分は自分に集中すること。あとは良いときも悪いときも同じことをやり続けて、その中で変化していく。そこだけは継続してきたと言えるし、それが、今の豊川雄太を作り上げていると言えるかもしれない」
だから、この大詰めを迎えても平常心でいられる。
そのうえで、J3からの昇格チームでありながら、史上初となる2年連続昇格に挑戦中のチームに対して、自信を持っている。J3から最短でJ1へ駆け上がろうとしている現在の状況を勝ち取ったのは、他でもない自分たちだ。
「チーム全体の力でこの位置に辿り着いたと思います。調子が良いときも苦しいときも、みんなでやってきた。だからやっぱり最後、全員で目標を掴みにいきたい」
大宮移籍を決めたのは、信頼する長澤徹前監督と若宮直道コーチの存在が大きかったから。ただ、宮沢監督にも同じく尊敬の念がある。
「戦術的なところ、やりたいサッカーを表現して結果を出しているところもすごいけど、一番は人としての魅力じゃないですか。海外から来てボス的な存在な人もいるけど、そういうところはまったくない。選手やコーチ陣とコミュニケーションを取って、いろいろな意見を聞きながら最後は自分で決めている。この短期間で、それをやるのは簡単じゃない。もちろん、意欲的に取り組んだ僕たち選手もすごいと思います」
宮沢監督の就任以降、ここまで負けは一つもない。劇的な逆転勝利があり、土壇場での同点ゴールがあり、首位撃破があった。「昇格するためのストーリーができているんじゃないかと思う」という豊川の言葉通りの展開だ。
徳島戦を控えた11月15日は土曜日の練習公開とあって、多くのファン・サポーターが西大宮のグラウンドに集まった。強度の高い8対8などを行ない、最後はポイントを争うシュート練習で終了。目標に向かうチーム全体に、ほどよい緊張感が漂っている。
「今の喜びは、もちろん勝利です。ゴールを決めても負けたら全然うれしくないですし、価値もないので。ストライカー、ストライカーしていた時期とちょっと違って、今は周りを生かして、最後に生かされる感じ。守備でガンガン行きながら、攻撃の起点となって、最後にゴールを決める。そういう形ができれば、終わったときに『良いシーズンだったな』と胸を張れると思っています」
全員の力でここまで辿り着いた。あとは目の前にある目標を勝ち取るだけだ。
(文:粕川 哲男/写真:高須 力、早草 紀子)
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